おやすみ

 深夜に帰ってきたウツミが部屋着に着替える衣擦れの音を聞いていた。冷蔵庫を開けて、閉める。モーターの音。キッチンの床はわたしではなくウツミに乗られると鳴く。

「おかえり」

「ただいま」

 しばらくして隣にウツミが潜り込んできた。この狭い部屋にベッドは一つしかない。わたしは小さいけれど、大柄なウツミにはそれでも邪魔になるだろうと思う。だけど実際は、わたしがいないとウツミは眠ることもできない。

「キイ」

 助けを求めるみたいにわたしを呼んでおいて、いつもなにも言わない。だからわたしはウツミを抱きしめる。昔ママがそうしたように。朝になれば正しい大人と子供になって、わたしは小学校へ、ウツミは仕事に行く。定期の中にふたり同じ写真を隠して、ちゃんと生きていくから。

「おやすみ、ウツミ」

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