深海
南尾が深海に戻ると言ったのは、まだ肌寒い二月の終わりだった。
「今までありがとう」
真夏の照りつける日差しの中で出会った。南尾浜で見つけたから南尾。私が名づけて勝手に呼んでいた。南尾は美しい尾びれを浴槽の中で動かす。タグが揺れる。傷は十分に治っていた。張った水に塩を足す。
「やっぱり、私は深海に行けない?」
「死んでしまうわ」
「市内の施設で足を切ってもらう」
「二度と言わないで」
「ごめん」
五年前から人工人魚の研究が行われているのは知っていた。身寄りのない子供達は人魚になって深海都市の開発調査にあてがわれるか、戦場に駆り出される。叔父に拾われた私は幸運らしい。けれど本当は南尾と同じ世界が見たい。
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