第69話 修学旅行

「忘れ物はないですねっ?」


 楓が俺のバッグを見ながら言ってくる。


「大丈夫だ。それに昨日楓にも確認してもらったからな」

「そうですけど……ちゃんと自分でも最終確認しないと」

「自分で確認するより、楓の方が信用できるからな」

「自分をもう少し信じてあげてください」


 そう言って楓はまったくもうといった表情で俺のことを見てくる。


 楓にはああ言われたが実際のところ自分で確認するより100倍くらいは信用できるのだ。嘘ではない。


「さてと……そろそろ行くか」

「はいっ!そうですね」

「少しの間この家ともお別れだな」

「本当に少しの間ですけどねっ」


 俺はそう言って玄関に鍵を閉めて、集合場所である駅に向かった。


◆◆◆


「あーっ!か~え~ちゃんっ!」


 そう言って千夏は楓に勢いよく抱き着く。楓の体制が少し前のめりになるが、体幹がしっかりとしているのだろう転ぶまではいかなかった。なんなら少し前のめりになっただけで平気そうだった。


「こらっ千夏危ないだろ」


 拓人がそう言って千夏の首ねっこを掴んでいる。


「だって、かえちゃん見たら抱き着かずにはいられなくなって」

「楽しみなのはわかるけど危ないからやめような」

「は~い」


 聞き分けがよろしい。と拓人は千夏の頭を撫でている。まったく夫婦漫才はよそでやってほしいものだ。


「ほら~出席とるぞ~」


 担任が生徒たちを整列させるもちろん俺たちも例外ではない。


 そして、出発式などが終わり、ついに新幹線に乗り込む。


 席は出席番号順で男女別なので全然しゃべらない女子が隣でかなりきまずいということにはならない。


 俺は、新幹線で何もすることがなく、少し眠かったので目を閉じた。どうせ起きたとしても新幹線に乗っているだろうと思い、眠気に逆らわないでゆっくりと目を閉じ眠りについた。


 俺は誰かに、体を揺らされると目が開いた。しかし、まだ頭は覚醒しきっていない。


 すると、隣の席に座っている奴から聞いたのだが、もうすぐ京都につくらしい。すると、新幹線のアナウンスで次は京都と言っていた。


 新幹線から降りると、みんなが「疲れた」「長かった」などと言っているが、俺の新幹線に乗っていた体感時間は10分もなかった。


 修学旅行の一日目は多くの学校が、その土地の歴史や文化について学ぶことが多いだろう。俺たちの学校もクラスごとに分かれながら、バスで移動しながら、バスガイドさんから豆知識的なことを聞く。


  目的地に着くと、バスから降りてようやくしっかりと深呼吸ができる。


「長時間座ってると尻が痛いな……」


 俺は軽く長時間の移動に不満を吐きながらも、背伸びをして自分たちの住んでいる場所とは全然違うことに新鮮な感じがした。


「新鮮ですね~」


 気づいたら楓も隣で背伸びをしていた。クラスは同じでも女子と男子は別々で盛り上がっているので、あまり話せる機会がないのだ。


「素敵な修学旅行になるといいですねっ!」

「あぁ……そうだな」


 ふふっと笑ったその顔は、俺だけでなく、バスガイドさんや運転手も魅了していた気がする。

 その瞬間みんなが楓の方に注目していた気がする。


◆◆◆


「疲れた~!!」


 同じ部屋の一人が、そう言って畳の上に寝っ転がる。あのあと、数時間話を聞いたり、建物をまわったりしてまたバスに乗り、今旅館についている。


 やっと休めるといった感じでみんなだらけ切っている。スライムのようにドロドロになっている奴もいるくらいだ。


 しかし俺も確かに疲れてはいたのだが、明日の自由行動が楽しみだったので、別に疲れるというよりもワクワクが強かった。


 そのあとは何事もなく夜が明ける。


 修学旅行は二日目の自由行動に突入する。




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