第68話 学校の行事

「もう少しで修学旅行ということでフィールドワークや自由行動の場所を決めろー」


 担任の先生が、眠そうな声でクラスの俺たちに呼びかけてくる。修学旅行の班は自由だ。俺たちの班はというと、拓人と千夏と楓、そして俺の四人の班だ。

 まぁ……班は自由なので好きなやつと組むのが普通だろう。


「千夏はどこに行きたいんだ?」


 拓人が千夏に話題を振ると、千夏は目をキラキラさせてガイドブックを見ている。


「京都かぁーいいところいっぱいあるよな」

「観光名所ですからね」

「私ねここ行きたいっ!!」


 そう言って、千夏は次々とガイドブックに指をさしていく。


「お前それ全部店屋じゃねぇか」

「えぇ~いいじゃ~ん……」

「あ~あ、千夏の気分下がっちゃった」


 拓人がそう言って俺が悪いことをしたみたいな雰囲気を出してくる。別にすべてを否定したわけではない。


「そんなに全部はまわれないだろってことを言いたかったんだ。全部がダメということじゃないんだ……」


 俺がそう言うと、千夏は罠にひっかかった獲物を見るみたいにキラキラした目と少しにやついている口元を見せてきた。


「じゃあ……数か所は回っていいってことだよね?」

「え……?まぁそうなるな」

「やったー!じゃあこことここの二つ!!」

「はっ?!ちょっと待て」


 いきなりでわからなかったが、ものすごい鼻息だ。ふんすふんすと音を立てている。

 しかしそんなに急に決められても困るのは俺たちの班長だ。


「みんなで決めないとダメだろ」

「蓮がいいって言ったのに……」

「それは……そうだけど」

「俺はいいぞ~」

「私も、二か所なら十分他のところもまわれると思います」


 他の二人が、千夏の提案というか千夏の行きたい場所を承諾したので、あとは俺だけ……

 そう思っていると、千夏がウルウルとした瞳で俺の顔をジーっと見つめてきた。


 さすがの俺も、これを断るのはかわいそうだと思った。というか、俺は他の二人がいいと言ったらついていくつもりだった。


「いいんじゃないか?」

「やったー!」

「やったな千夏!」

「みんなの協力のおかげだよ!」


 そう言って千夏は大喜びして、ニコニコとずっと口角が上がっている。


「協力……?」

「あぁ、お前だって絶対俺たちがいいって言わなかったら、千夏の生きたい場所反対してたろ」

「まぁ……」

「だから、俺と楓さんで千夏の提案した場所にOKを出そうってことになった」


 二人とも最初からグルだったのだ。というか、俺ってそんなに信用がないのか……


 そう思うと少し複雑だ、自分だけが仲間外れ感があった。


「その代わり……お前がまわりたいところは行こうってことにした」

「え……でも二人は」

「俺は千夏とまわれればどこでもいいから」

「わ、わたしも大丈夫ですよっ」

「じゃあ……」


 俺は少し考えて………というよりも考えるふりをしていた。もう決まっていたのだ。しかしすぐに言ったら拓人や千夏にからかわれそうだったので考えているふりをした。


「清水寺……に行きたい」

「いいねぇ!」

「そうですねっ!いいと思います」

「まさか蓮……清水寺選んだの楓さんの名字に清水って入ってるからか?」


 拓人が気づかなくていいところに気付いてくる。本当にこういう時はこいつの勘の良さを恨む。


「別に……」

「やめてあげなさい旦那ぁ……蓮だって恥ずかしいんですよぉ」

「こりゃ失礼」


 と言って俺をからかって笑っている。


「清水寺でいいんだな!」

「あぁ、もちろん」


 ………ったく、こいつらは、そう思いながらため息をつくと、楓が俺の耳に口を近づけて


「よかったですねっ」


 そうひとこと言ってきた。俺は急にそんなことをされたのでびっくりしてしまい、椅子を思いっきり後ろに引いてしまった。


 楓はそんな俺を見て、クスクスと笑っている。千夏と拓人は不思議なものを見るみたいな表情で目をパチパチさせながら俺たちの方を見ていた。


「じゃあちゃちゃっと、他まわるところを考えますか!」

「おー!」

「はいっ!」

「おー」


 なぜか三人がとても暑い熱量で、腕を上にあげながら言っているのに対して、俺はついていけないと思い、小さい声で腕も上げずに言った。



「ひとり、熱量が足りないやつがいるな」

「蓮君?こういう時は一緒に楽しんだ方がいいですよ?」

「いや……疲れるし」

「帰ったら、蓮君の好きなもの作ってあげますから、もうすこし頑張りましょう?」

「まぁ、楓がそう言うなら」


 そのあとは拓人と千夏のテンションに頑張ってついていった。女子高生のテンションというものは恐ろしいと再認識することになってしまった。


 しかし、こんな学校生活もいいだろうと、まだ先だというのに修学旅行が楽しいものになるだろうと、ワクワクしていた。






 

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