第67話 ふたりの雰囲気

 今日はバイトのシフトが俺と楓どちらも入っている日なのだが、今日はいつもより混んでいるような気がする。


 いつも客が入っていないわけではないが、ここまで多いと流石に肉体的にも精神的にもキツいかもしれない。


「楓大丈夫か?」

「はいっ!心配してくれてありがとうございますっでも、大丈夫ですよ!まだまだ元気ですっ!」

「そっか、それならよかった」


 俺はそう言うと、安心からだろうか無意識に顔が微笑んでしまった。

 

「それにしても、今日お客さん多いですね」

「そうだな、なんでこんなに・・・・・・」


 俺がめんどくさいみたいな表情をすると、楓はクスッと笑って俺の方を見てくる。


「SNSで写真アップしたら、バズっちゃったらしいよ〜!」

「SNSやってましたっけ?」

「てんちょーが最近始めたらしい」

「それでこの人気は中々凄いですねっ」

「本当嫌になっちゃうよね〜」

「そこ3人喋ってないで仕事しろ」


 成瀬先輩が喋っていた蓮達に対して仕事をするように促してくる。

 仕事をしているんだから当たり前だが、こんなに大変な時に働きたくはない。


「蓮くんっ!頑張りましょうっ!」

「お、おう・・・・・・」


 楓はまだまだ元気いっぱい!という感じで仕事に戻っていた。


 結局俺も成瀬先輩に言われたあとヒーヒー言いながら仕事をして、今は休憩時間だ。


(成瀬先輩と二人きり・・・・・・)


 俺は喋る話題がないと、知ってる先輩でも気まずい空気になるんだなぁ・・・・・・

 今度からちゃんと会話デッキを組んでおこう。


「あっ、一つ聞きたいことあったんだ」

「はい?なんですか?」

「お前と清水って付き合ってんの?」

「・・・・・・・・・っ?!」

「ははっ!何その顔っ。驚きすぎだろ」


 そりゃ驚く、まだバイト先の人には誰にも言ってないのに・・・・・・


 それにしてもなんで知ってるんだ?蓮はそんなことをジッと座って考えていたが、疲れからか、なにも出てこなかった。


「・・・・・・なんで、知ってるんですか?」

「やっぱり図星か」

「はい」

「なんとなくだよ、本当に」

「それだけですか?」

「あとはなんか、二人の雰囲気っていうか」


 俺と楓の雰囲気はいつもと同じような気がするが・・・・・・

 周りから見たら全然違うのだろうか・・・・・・


「バレてないなんて思わない方がいいぞ」

「へっ?」

「陽菜も絶対気づいてるしな」

「いやぁ、またまたぁ」

「アイツは変なところで空気読めるからな」


 俺は何も悪いことをしてないのに、変な汗がツツっと頬から下へ段々と落ちていくのがわかる。


「本当ですか・・・・・・」

「あぁ、本当」

「俺そろそろ行くわ。お前らは、ほどほどにな」

「・・・・・・はい」


 俺はそう言って、成瀬先輩が出て行った後、はぁっと深くため息を吐くことしかできなかった。


(成瀬先輩だけでなく、陽菜先輩が付き合ってることを知ってる?)


 疑うことしかできないが、成瀬先輩のあの自信からみて、嘘ではなさそうなので、本当にバレているのかと俺は一気に恥ずかしさが増して顔が熱くなった。


「バレてないと思ってたのに・・・・・・」

「なにがですかっ?」

「か、楓っ?!」

「なんですか?急に大きな声出して」

「い、いやぁその・・・・・・」

「んー?」


 楓は蓮が何か隠してるのが嫌だったのだろう。顔を近づけて、圧をかけてくる。


「楓さん近いです」

「言うまでやめません」

「じゃあ言うのでやめてください」

「残念ですっ、もっと近くで顔を見たかったのですが、約束を破るわけには行きませんからねっ」


 俺は楓の圧にすぐに降参した。そうしないと、心臓がもたない。


 俺は楓にさっき成瀬さんが言ってたことを全て話した。

 それを聞いた楓は、笑っていた。


「全然恥ずかしくないじゃないですか」

「そ、そうか?」

「はいっ。隠す必要なかったんじゃ・・・・・・」


 こんなに考えていたのは俺だけなのかと考えたら少し悲しくなった。


「付き合ってることは、悪いことじゃないじゃないですかっ」

「そうだな、俺が考えすぎだった」

「はいっ!そんなことより、もっと楽しいお話をしましょう!」


 俺のさっきまで悩んでいたことは、で流されてしまった。

 流石と言うべきなのか。


 俺は今日も敵わないなと、バレないように楓の方を向いて微笑んだ。

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