第65話 甘やかし前
水族館から帰ってきて、今日あった出来事を振り返っていた。
まずは千夏と拓人が仲直りできたことが1番だろう。あそこには何かと助けてもらっているから、これで少しでも借りを返せたらと蓮は思っていた。
もう一つは楓とのデートのことだ。四人で行ったとはいえ、楓がとても楽しそうに、していたのを見て、それだけでも行った価値があると思った。
「蓮くん?こんなところで寝てると風邪引きますよ?」
俺はソファで寝るような体制で思い出していたのだが、楓はその体制は風邪を引くと言われ、起こされてしまった。
「そんな、子供じゃないんだし」
「いいえ、蓮くんはまだまだ子供ですっ」
「あっそうですか」
「目を逸らすのも可愛いですよっ」
そう言って楓は俺の目をジッと見てくる。横目でこちらを見るのは分かったが、俺は楓の方に目を向けようとは思わなかった。
どうせ楓の目を見たら自分の顔が赤くなって、楓にまた可愛いなどと言われてしまうからだ。
しかし、一向にどこかへ行く気配はない。
(もしかして、俺と目が合うのを待ってるのか?)
いやいや、そんなことはいくら楓でも思わないだろう。
蓮はそんなことで悩んでいた時、ふと楓の居る方に目を向けてしまった。
すると、パチッと目が合ってしまった。
「やっとこっち見てくれましたねっ」
と目が合った途端にニコッと笑いながらそんなことを言ってきた。
「やめてくれ・・・・・・俺の身がもたない」
「なに言ってるんですかっ?ご飯の用意しちゃいますね」
そう言って楓はスタスタとキッチンに向かっていく。
やっぱりだ。そう思った時にはもう、蓮の顔は赤くなっていた。
(こんなに熱いんだからもう風邪ひいてるかもな・・・)
蓮はそう思いながら、自分の頬を触って再度熱いと感じた。
◆◆◆
「すみませんっ、ご飯遅くなってしまい。お腹空きましたよね?」
「ちょうど、いまお腹空いてきたところ」
「じゃあ、熱いうちに食べちゃいましょう!」
二人で両手を合わせて、「いただきます」と言ったあとに、楓が作ってくれた料理を口いっぱいに頬張る。
さすが、できたてと言ったところだろうか、とても舌が火傷しそうなくらい熱いがそれ以上に美味しさが勝ってしまう。
「やっぱり料理上手だな」
「あ、ありがとうございますっ」
「いい奥さんになれるぞ、絶対」
「お、奥さん・・・・・・」
絶対なれる。他の高校生がどれくらいなのかはわからないが、楓の料理はとても美味しい。
楓なぜか、手で顔を仰いでいた。
「なにしてるんだ?」
「あ、あついんですっ!」
「そうだな、冷まして食べないと舌火傷するレベルで熱いな」
「蓮くんが変なこと言うから・・・・・・」
「え?俺変なこと言ったか?」
「もういいです!」
楓は「そういうところですよ」と言ったあとは、黙々とご飯食べていた。
蓮は自分の発言を振り返って、恥ずかしいのかわからないが、楓が奥さんというワードに反応したことだけはわかった。
(こんな可愛い奥さんがいたら、将来仕事頑張れる)
そんなことを考えながら、蓮は仕事が終わって家に帰ると楓が玄関で出迎えてくれる妄想をご飯を食べながら一人で考えていた。
蓮は楓の方を見ながら
(本当に大好きなんだよなぁ)
そう思いながら、また楓の料理を口に入れる。
食器の片付けが終わったあと、楓が俺の隣に座ってきた。
「どうしたんだ?」
「まだしてなかったなって思ったんですっ」
「なにをしてなかったんだ?」
「甘やかしの刑です」
そう言って、楓は蓮の方を見て、ニマッと小悪魔のような笑みで蓮にジリジリ近寄ってくる。
「い、いや!そんなこと!」
「言ってましたよ?」
「たしかに言ってました・・・・・・」
クソッ、されるがままかそう思いながら、覚悟を決めて目を瞑ると、なにもされない。
恐る恐る目を開けると、楓はピタッと止まっていた。
「甘やかすって具体的に何をすればいいんでしょうか?」
「その人の喜ぶことをすればいいんじゃないか?」
「じゃあ蓮くん何されたら喜びますか?」
正直楓に何かされることで嫌なことなどないと思った。
むしろ、楓にされることは全部喜ぶ自信があるほどだった。
「じゃあ蓮くんの顔が見たいので・・・・・・」
「な、なんだ」
「膝枕に決定ですっ!観念してくださいねっ」
そう言って、俺の甘やかしの刑は膝枕となった。
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