第63話 水族館③
お昼を食べて会計を済ませたあと、店の外に出て料理の余韻に浸っていた。
すると、拓人が俺と目が合ったので、俺がOKのサインを指で作ると、拓人は申し訳なさそうな表情で俺の方を見ていた。
「悪い、俺たち、ちょっとだけ2人だけで、まわってもいいか?」
「えっー!私もかえちゃんとまわりたい!」
「あとで思う存分貸してやるから」
「それなら、いいけど・・・・・・」
俺がそう言うと、千夏は少し納得がいっていない表情だった。
そのあとは拓人が上手くやって、別々に行動することになった。
「あ、あのっ!どうして急に2人でなんて・・・・・・」
「嫌だったか?」
「いえっ!決してそういうわけじゃ・・・・・・」
「拓人が謝りやすい空間を作ってやりたかったって言ったら怒るか?」
俺がそう言うと、一瞬間があいたが楓はニッコリ笑って「怒りません!むしろ嬉しいですっ!」
「嬉しい?」
「はいっ!だって、やっと2人きりになれるじゃないですかっ!それに、2人きりということはデ、デートですねっ」
楓は、デートという言葉を口に出すのが恥ずかしかったか、「デート」と言っていた時、顔がほんのり赤くなっていた。
「さっきも、Wデートだったろ」
「それとこれとは全く違いますっ!」
「そ、そうだな・・・・・・」
俺は楓の勢いに流されるまま、返事をしてしまった。
拓人達の方を見ると、雰囲気が少しピリついた空気になっていた。
その2人の背中を見ながら、上手くいきますようにと願っていた。
「どこから行きますっ?」
「んーと、じゃあ・・・・・・こことかどうだ?」
そう言って、俺と楓がきた場所は、大きな水槽に色々な魚が泳いでいる水槽の前に来た。
人も多く、あちこちからパシャリと写真を撮る音が聞こえてくる。
「見てくださいっ!いっぱいですっ!」
「そうだな、いっぱいだな・・・・・・」
魚の多さに楓がびっくりしながらも大きな瞳をキラキラと輝かせている。
その姿を横から、一番の特等席で見れることに感謝している。
しかし・・・・・・さっきから視線が多い気がするのは気のせいだろうか。
そう思って周りを見ると気のせいではなかった。通りすがる人たちが楓のことを見ている。
(楓じゃなくて、魚を見ろよ!)
「蓮くんどうかしました?」
「あっ?!いや、なんでも・・・・・・」
「怪しい・・・・・・隠し事はダメですよっ?」
「なんでもないよ・・・・・・本当に」
あははと愛想笑いをしてなんとか誤魔化す。楓は納得してはいなかった。
「ふわふわしてますね」
水槽に顔を近づけて、水中を舞っているかのようなクラゲをジッと見つめている。
「可愛いですねぇ」
「でも、毒持ってるヤツもいるだろ?」
「やっぱりお、恐ろしいですね・・・・・・」
なぜか、水槽の中にいるクラゲにビビったあと、猫のように威嚇していた。
猫は猫でも子猫のような感じだった。
俺は、楓の頭をつい撫でてしまった。子猫を撫でるように、優しく撫でた。
「な、な、なんですかっ?!」
「あっ、悪い。つい・・・・・・嫌だったよなこんなところで」
「い、嫌じゃないですけど・・・・・・あの、お家でやってもらえると、助かりますっ・・・・・・」
「・・・・・・・・・はい」
(いや?!助かるってなんだ?!ヤバい、ちょっと帰るのが楽しみになってきた)
「なんか、嬉しそうですね?」
「あー、楓とデートできてるからな」
「そ、そんなの私もです」
「だって、俺が別行動しようって提案したんだぞ?俺の方がしたかった」
「そんなの、私も言おうとしてましたっ!」
「どうだか・・・・・・」
と俺が笑いながら言うと、楓は頬をパクッと膨らましながら「本当ですっ!!」と言ってきた。
その姿も実に可愛らしい。
「じゃあ、そういうことにしとこう」
「絶対思ってないですよねっ?」
「じゃあ次のところ行こうか」
「もうっ、蓮くんは・・・・・・って待ってくださいー」
俺の隣にきて、少しぷりぷりしてるが頬をほんのり赤くして、口紅を塗って来たんだろう、唇がいつもより赤かった。
「キスしたい」
(しまった!つい声に・・・・・・)
聞こえてないか、恐る恐る楓の方を見ると、楓は俺の方を見ながら固まっていた。
そして、時間が動き出したかのように、どんどん頬が赤くなっていった。
「な、な、何言ってるんですかき、急に!」
「わ、悪いっ!決して変なことは」
「それくらいはわかってますよ!で、でも・・・・・・」
「でも?」
「ここでは、ダメですっ」
「じゃあ、どこでだったらいいんだ?」
「そ、それは・・・・・・」
楓は恥ずかしそうに顔を隠しながら、そのまま黙ってしまった。
「あのー?楓さん?」
「お、お家だったら・・・・・・」
「お家だったら楓はキスまでは許してくれると」
「っ!?もうっ!バカッ」
俺はポコッと殴られる。しかし楓は怒っているというよりは、とても恥ずかしがっていた。
楓は歩くスピードが速くなっていた。
「悪かった・・・・・・ちょっと、からかいすぎた」
「・・・・・・いつも負けてる気がします」
「き、気のせいだろ」
「そうでしょうか・・・・・・」
そう言って、楓はだんだんとさっきまで赤くなっていた頬が元に戻っていた。
しかし、俺が楓の手を握ると、楓は柔らかな小さな手でぎゅっと力強く握り返してくる。
この時間がとても幸せだと感じた。
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