第62話 水族館②

「みんなお腹すいてない?」


 拓人がみんなに問いかける。そういえば海の生き物に夢中ですっかり時間を忘れていた。

 スマホの時間を見ると、時刻は11:45ともう既にお昼時だった。


「確かに、そろそろ時間ですね」

「あー、もうお昼だって考えると、急にお腹減ってきた」

「千夏は?」


 拓人がさりげなく千夏に聞いている。こういうところなんだろうな、拓人のモテる理由は・・・・・・別に羨ましいとかではない。


 見習みならわないとなと思っているだけだ。それに・・・・・・それに俺にはもう楓が居るだけで十分だ。


 チラッと楓の方を見ると、楓も俺の方を見ていたので、ばっちり目が合ってしまった。

 恥ずかしくなって、すぐに目を逸らそうとする俺に対して、楓は恥ずかしがりながらも微笑んでくる。


(ヤバイ・・・・・・今すぐに抱きしめたい!)


 ここの中でそう強く思ってしまったが、グッと抑えこんで、プイッと顔をそらす。


「別にみんなが食べるなら私も・・・・・・」


 千夏がそう言いかけた途端、ぐぅぅぅ。と大きめのお腹が鳴る音が聞こえた。


 千夏が顔を真っ赤にして、ぷるぷると震えている。


「じゃあ、お昼にするか」

「・・・・・・うん」

「みんなもお昼でいい?」

「私はいいですよっ」

「俺も、それに千夏が限界そうだからな」


 蓮がふざけて千夏のことを煽るような口調で言うと、千夏は蓮のことを睨んできた。


(あっ、やらかした・・・・・・)


「おい蓮!」

「蓮くん、それは意地悪ですよ?謝ってください」


 拓人が蓮に何か言いたがる様子だったが、それを遮って、冷たい声色で楓が蓮に言ってくる。


「ご、ごめんっ。ふざけすぎた」

「よろしい」


 そう言って楓は蓮に微笑んでくる。その笑顔を見た瞬間、ホッとした自分がいた。


「あははっ!蓮ってばかえちゃんに弱すぎでしょ」

「なっ?!べ、別に今のは俺が悪いと思っただけだし、別に弱いとかそんなんじゃ」

「んー、お詫びになにしてもらおうかな〜?」

「ちょっと待て!そこまで酷くはなかっただろ!」

「千夏さん、あまり蓮くんをいじめないであげてくださいねっ?」


 「かえちゃんが言うなら」と言ってやめてくれたが、俺の方を見て、べーっと舌を出していた。

 千夏は元気が出たのか、さっきまではなんか不機嫌ですよアピールが出ていたが、今はケラケラと笑っている。


 さっきまで、ピリピリしてたのが嘘みたいだな。


 そう思っていると、拓人に脇腹を突かれる。少し痛いくらいだった。

 怒ってるだろうな・・・・・・俺も拓人に楓があんなこと言われたら怒ると思う。


「拓人さんっ、とても俺は今反省していますっ」

「あー、楓さんが言ってなかったら俺が怒ってたからな」

「はい・・・・・・」


 俺が失敗したといった表情をすると、拓人もなぜか笑っていた。

 そんなに俺の顔が面白いのだろうか。


「ありがとな、蓮のおかげで千夏が少し元気になった」

「俺だけじゃないだろ」

「・・・・・・そうだな」


 そんなやりとりをしている間に水族館の中にあるレストランに着いた。

 千夏がこの場所がいい!と強く推していたので、さぞ美味いのだろう。


「ごめんなさいっ、ちょっとお手洗いに」

「あっ、私もー」


 そう言って、2人がトイレに行ってしまったので俺と拓人2人きりになった。


「拓人いつ謝るんだ?」


 俺が拓人に、さりげなく千夏にいつ謝るのか聞くと、拓人は苦笑いしながらテーブルに置かれた水を一口飲む。


「大丈夫。この水族館を出るまでには謝るよ」

「本当だろうな。お前から謝らないとダメだからな」

「分かってるって」

「なら、いいけど」


 このカップルには、いつもバカをやっていてほしいので、早く仲直りをしてほしい。


「あっ、俺がじゃあ楓と二人で水族館見るから拓人は千夏と二人で水族館を見て回ったらどうだ?」

「要するに、別行動ってことか?」

「そういうこと」

「悪いな・・・・・・」

「午前中は一緒な回ったんだから、それに楓と二人だけでも回りたいし」


 俺がそう言って、自分でハッとなった時には遅かった。拓人が俺の方を見ながらニヤニヤしている。


「最後のが本音だ」

「さぁ?どうだろうな」

「それにしてもお熱いねぇ〜、氷が溶けちゃうよ」

「うるせ」


 そう言って、氷で冷やされた水を飲むと、確かにもう氷は溶けてきていた。

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