第60話 Wデート②

 蓮と楓が集合場所に着く頃、すでに拓人は集合場所に到着していた。

 しかし、一人で待っているところを見ると千夏とは一緒に来ていない。拓人が一番乗りで集合場所に着いたようだ。


 もう時間もギリギリなので、千夏はもしかしたら遅刻なんじゃないかと思っていた。

 と考えていた時、「ごっめーん!」と言って、ゼーハーと息を切らしながら走ってきた千夏がもう汗がすごかった。


(今日は暖かいな・・・・・・それにしても・・・・・何話していいのか、全くわからない)


 こういう時は、喧嘩をしていない方のカップルが話題を振るのが常識というか普通というか、しかしこうも何を喋ればいいのか浮かばない時があるとは


「千夏さん、そこまで急がなくても・・・・・・」

「だ、だってぇ・・・・・・迷惑かけちゃうじゃん」

「まっ、俺らと同じくらいだったし大丈夫だ」


 と言って俺は親指を立ててグッドのサインを送る。


「じゃあ、全員揃ったことだし行きますか」


 拓人が今日のプランを考えてきてくれているので拓人の後ろをついていく。


「拓人、喋らなくてもいいのか?」

「・・・・・・・・・なんか、気まずくて」

「気持ちはわかるけどさぁ・・・・・・ちゃんと話せよ?じゃないと千夏が可哀想だ」

「・・・・・・わかってる」


 今は楓が千夏の相手をしているので、大丈夫だと思うがもし2人きりになった時、させた時に拓人がこの調子だと仲直りしたくても、できない気がするので釘を打っておいた。


「今日は水族館に行くんでしたよね?」

「そうだよー」


 拓人がのほほんと答えている。今日は拓人の提案で水族館になった。


 前から千夏が行きたがってたから水族館らしい。蓮と楓も別に水族館が嫌じゃないので、すぐにOKを出した。


「楽しみですねっ!ね?蓮くん」

「えっ?あ、あぁ」

「それは、あまり楽しみにしてない時の返事です」


 と楓は頬を膨らませている。どんどん膨らんでエサを沢山詰めてるハムスターみたいだった。

 俺はなぜかこの時どうしても楓の頬をツンと指で突いてみたかった。


 どんどん膨れ上がるので、ツンと指で突くと柔らかい頬かは空気が抜けてプスッーと音を立てて、普通の頬に戻っていった。


「可愛い・・・・・・」

「や、やめてくださいっ!か、からかわないでくださいよっ」

「いやぁ・・・・・・つい」

「なんですかその理由!」


 プイッとそっぽ向いても怒っている様子はなかったし、「やめて」と言っておきながら、本当にやめると眉を下げて明らかにシュンとなるので、もう一度やりたくなる。


「他の人もいるから、二人とも抑えろよー?」

「わ、わかってるよ!」

「あっ・・・・・・す、すみませんっ」


(たしかに今のやり取りは外でやってはいけなかった・・・・・・)


 やってしまったと蓮は顔を手で隠す。楓も反省しているようで、恥ずかしそうに自分の表情を周りに見えないように下を向いて上手に隠している。


 まぁ、隣に居るから顔が赤くなっているのがバレバレなんだが。


 電車に乗って、丁度席が四つ空いていたので、座らせてもらった。

 こうして考えてみると楓とちゃんとデートはあまりないんじゃないかと思ってしまう。


 楓とデートでも水族館は初めてだし、なにより

拓人と千夏を仲直りさせるという目的があるのを忘れないようにする。


「かえちゃんふかふか〜」

「ちょっ!?どこ触ってるんですかっ!?」

「えへへ〜いいねぇ、いい身体してるねぇ」


 と千夏が楓の身体をお触りしている。俺は彼氏として止めた方がいいのかもしれないが、男としてこの光景をもう少しだけ見たいと思ってしまった。


 しかし楓に限界が来たのか、瞳をうるうるさせてこっちを見つめてくる。


「蓮くん〜たすけてくださいっ・・・・・・」


 さすがに楓が恥ずかしさで爆発しそうだったので止めようとしたら


「ちー?そこまでだ。楓さんが困ってるだろ?」

「・・・・・・はーい」

「それに、ここは俺たちだけが乗ってるわけじゃないから、はしゃぎすぎないようにな?」


 千夏はコクコクと頭を縦に振っている。


「さすが彼氏」


 と拓人の耳元で囁くと拓人は「うるせ」と蓮の肩に結構な力で叩いてきた。


(照れ隠しだと思うけど、もう少し優しくしてくれてもいいだろっ!?)


 顔を上げると楓が俺の方をジトッとした目で蓮のことを見ていた。


(あれっ・・・・・・俺もしかしてやらかした?)


「楓さん?どうしました?」

「どうもしてませんよっ?」

「かえちゃんは、なんで助けてくれなかったかを聞きたいんだよー」


 これだから蓮はといった表情で千夏は蓮のことを見てくる。


「そ、それはだな・・・・・・」


 言えない。もっと見ていたかったからなんて言えない。


「蓮も男だからねぇ〜、そういう時があるんだよ」

「そういう時・・・・・・ですか?」

「それは、おふたりが大人の階段を登るときに、かえちゃんも分かると思うな〜」


 楓は最初は千夏の言ってる意味が分からなかったが理解した途端、千夏のことをポカポカと叩いている。


「楓、千夏にちょっかいかけられてる楓が可愛かったから、止めるの惜しいなって思っちゃったんだ」

「蓮くんは可愛いって言えばいいと思ってませんか?」

「そ、そんなことは・・・・・・ないと思う」


 楓がプイッとそっぽ向くと、またもや千夏がなにか思いついたみたいな表情していた。


「かえちゃんは、これでも可愛いって言われたことすごく嬉しがってるよ〜!にゃははは!」


 千夏は「かえちゃんはかわいーな!」と言って頭を撫でたり、楓の腕に頭を擦り付けている。

 その様子はまるで猫、いや猫そのものだった。


「千夏さん?」


 声色が違く、蓮も拓人も隣に居る千夏も一瞬ビクッとした。

 さすがに楓もこんなにからかわれたら怒るよな、謝ろうと千夏も思ったと思う。


「か、かえちゃん!ご、ごめっ・・・・・・」

「そ、それは言っちゃダメですっ・・・・・・」

「へ?」


 とても恥ずかしそうに楓が真っ赤になっている顔を隠しながら千夏と話している。

 千夏も怒られると思っていたのか、気の抜けた声を出していた。


 こんなところでも、楓の可愛い瞬間を見れて、彼氏としては得しかない。


 しかし、肝心な拓人が未だにさっき注意しただけで千夏とは全く喋っていない。

 こんな感じで、大丈夫なのだろうか。蓮は一人電車の中で考えていた。

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