第51話 千夏へのお願いごと

 時間が過ぎるのは早いもので、この間バレンタインだった気がするのだが、もうあと1週間くらいすると、3月14日を迎える。


 そう、だ。


 楓には手作りのチョコレートケーキを作ってもらったのでお返しは何にしようか考えていた。

 最初は有名チョコレートなどの市販のものでも良いだろうと思っていたが、どうせなら、手作りのお返しをしたい。


「れーんー、ホワイトデーどうするんだ?」


 と拓人は俺に会った瞬間すぐに聞いてきた。


「迷ってるんだよ・・・・・・何をあげるか」

「だよなぁ、俺も千夏へのお返し迷ってたけど、今年はマフラーでもあげようかなと」

「なるほど、食べ物以外か・・・・・・それもアリだな」

「そりゃ、そうだろ、ホワイトデーなんてお返しの気持ちが伝わればいいんじゃねぇか?」


 俺はずっと、ホワイトデーは何か食べ物を楓に渡すと考えていたが、マフラーや手袋など、食べ物じゃなくても良いと気付かされた。


 やはり、こういう時は長年付き合っているカップルは参考になる。ありがたや。


「たしかに・・・・・・そうだよな」

「なんでも喜んでくれそうだけどな」

「はぁー、だれかお菓子とか作れる人居ないかな」


 とため息混じりの言葉を吐くと、横腹をつつかれる。


「何をそんなため息を吐いている!」


 千夏が、喝を入れるかのように元気な声を出しながら何度もつついてくる


「あ、いいこと考えた」

「なんだよ拓人」

「千夏に教えてもらえよ、お菓子作り」

「はぁっ?千夏に?」

「千夏もお菓子作りとか得意だぞ?」

「いや、そうかもしれないけど・・・・・・」


 千夏にはバレンタインの時の前科があるので、頼みたくはない。というか、候補にすら、あがってなかった。


 しかし、あの唐辛子やハバネロ入り以外は普通に美味しかったのは覚えている。


 ジーッと千夏の方を見る。

 千夏は何の話をしているのかついていけない様子で、あわあわしていた。


「なっ、なに!蓮も拓人も!」

「じ、実は・・・・・・」


 千夏に俺と拓人が話していた、ホワイトデーのお話のことについて説明した。


「教えるのはいいけど、説明聞いたら蓮のさっきの私に対する態度が気に入らないから、謝って」

「ごめんなさい」

「素直でよろしい。もし今謝ってなかったら、かえちゃんに言いつけてたから」


 そこで楓を出してくるのは卑怯ひきょうだと思いながらも、心強い味方がついたと感じた。


「ありがとな千夏」

「別にいいけど、報酬はないのかなぁ」


 チラッと俺の方を見てくる。


「駅前のクレープ奢らせていただきますっ!」

「ふふんっ。いいでしょう、とっても美味しいお菓子作ってびっくりさせちゃおー!」


 勢いよく、教室の中で腕を上に突き上げる。

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