第42話 着物
さっき来た道のはずなのに、とても距離が短く感じた。隣にいる楓はそんなことは気にしていないのかなにか上に気を取られているようだった。
蓮もつられて上を向くと、空から白くて肌に当たると冷たいものが降って来た。
そう、誰でも分かるだろう雪が降って来たのだ。
「おぉ、雪が降って来たな」
「はいっ・・・・・・綺麗です・・・・・・」
「雪、好きなのか?」
「好きなのでしょうか、ただ綺麗だなぁと思って眺めていただけですからっ」
話す内容を蓮は必死に考えていたが、思い浮かばなかった。
すると楓は小さくクスッと笑った。
「なんだよ」
「いえっ、ただ私は蓮くんに必死に話す内容を考えてもらえるほどよく思ってもらってるのだなぁと思いまして」
「・・・・・・・・・うるさい」
楓は、俺の頬を突いて「顔赤くなってますよ?」と言ってくる。しかし自分がしたことに後から気づいたのか、楓もせっかく赤みが抜けて来た頬をボンと急に赤くする。
そんなことをやっているともう家の前まで来ていた。普段は綺麗と思わない道も、その時だけは綺麗と思った。
「ただいまー」
「ただいま帰りました。すみません遅くなってしまい」
玲子が「遅いっ!」とプリプリ怒っていたが、蓮の変化に気づいたのか、心配そうな顔を蓮に向けて来た。
「何かあったの?」
「・・・・・・あぁ、あったよ元カノと会った」
「・・・・・・そうっ」
「もう大丈夫、俺もいつまでも昔のことを引きずってはられないから」
俺はそう言って玲子を真っ直ぐ見つめた。玲子はフッと息を吐き、俺を抱きしめてくる。その時の玲子は震えていた。息子が立ち直って嬉しいのだろうか。
俺をぎゅーっと抱きしめた後、楓のことも全力で抱きしめていた。
その時玲子は楓に「ありがとう」と何回も繰り返していた。
◆ ◆ ◆
しばらく経って、楓は着物を着付けしてもらうために、玲子の部屋に行った。
俺も髪の毛をセットするために洗面所へ行き、髪の毛をワックスで固めた。
やはり、男性より女性の方がおめかしはかかるものだ。
しかし、その時間を待てばそこには昼間散歩した美少女とは違く、美人さんが着物を着て玲子の部屋から出てきた。
しかし、なぜか頬のあたりに汗をきらきらさせている。
「凄かったわよ〜楓ちゃんのお胸」
と言って玲子がニヤニヤしながら手で揉む動作をしている。
蓮はそんなことをしている玲子に呆れつつも、しかし羨ましいとも思ってしまったのでなんとも言えない気分だった。
「あれは〜たぶんEね」
「いー?」
「Eカップってことよ」
「玲子さんっ!!言わなくて大丈夫ですからっ!」
と着物を着ているが、胸を腕で隠すようなポーズをとっている。
「何やってんだバカ親」
「あらっ?興味ないのっ?」
「いや、そういうわけじゃ・・・・・・」
興味がないと言ったら嘘になる。しかしここであると言っても楓が口を聞いてくれなくなる可能性があったので返事を濁していたら、楓が頬を赤らめながらこっちを見ていることがわかった。
少し眉を上げて、ムッとしている。
「蓮くんのえっち」
「なっ?!」
「蓮のへんたーい」
「母さんには言われたくない」
言い合いになりそうなところを、すかさず裕介が止めてその場は収まった。
「でも、蓮?本当に楓ちゃんに言うことがあるんじゃないの?」
それを言われてやっと気づいた。楓の胸のことでしか触れていなかったので、楓が着物がとても似合うことをまだ褒めていなかった。
「楓!その着物めっちゃ似合ってる!」
楓は大声で言われたのが恥ずかしかったのか、ぽこぽこと俺の胸を殴ってくる。全く痛くはない、むしろ心が温まるような感じだった。
蓮はこんな日々が続いたら、どんなに幸せなのかなぁと考えていた。
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