第43話 初詣

「それじゃみんな行くわよ」


 玲子はそう言ったが、蓮と楓、裕介は居るのだが一人居ない。

 イベント事などには必ず行くという精神の持ち主の雛が居ないのだ。


 そういえばさっきから見ていない。一体どこに行ったのだか、そう思って、はぁっとため息を吐くとそれに気づいたのか玲子が


「雛はもう友達と先に行ってるわよ」

「なんでそんなこと今言うんだよ」

「知りたそうだったから」

「別に・・・・・・」

「あははっ蓮はかわいいね」


 玲子だけならまだしも祐介までそんなことを言ってからかってくるので、俺はそっぽ向いて窓の外を見ていた。


 昼間とは違く、暗い夜の道に車のライトで照らされた雪が空から降ってくる。


「今年の雪は去年より積もりそうだな」

「ですねっ!」


 独り言のつもりだったのだが、隣から嬉しそうな声が聞こえたので楓の方を向くと目をキラキラと輝かせていた。


「雪・・・・・・好きなのか?」

「はいっ!」


 蓮の質問に即答で返してくる楓は満面の笑みを蓮に向けてきたので、すぐに目を逸らしてしまった。

 それを見ていた玲子がこちらをイジりたくて、うずうずしているのか、こちらをチラチラと見ている。


「ふふっ、なんだかんだお似合いよねぇ、早く恋人としてウチに来てくれないかしら」

「おいっ、母さん」

「蓮?それは僕も思ってることかなぁ、二人を見ていると、僕と玲子さんが付き合って間もない頃にとても似ているんだよ」


 それを玲子ではなく、祐介から言われたのが恥ずかしかった。

 玲子だったらいつものことだと流せるが、祐介は滅多にそんなこと言わないので、蓮もだんだんと顔が熱くなってきてしまう。


 熱くなっている顔は必死に車の暖房のせいだと自分に言い聞かせた。

 隣の楓を見ると、耳まで林檎りんごのように真っ赤にして両手で顔を隠していた。


 その楓の姿を見て、ニヤけてしまう。仕方ないことだろう。


「さっ、みんな着いたよ」


 裕介がそう言うと、蓮と楓は車から降りたのだが、玲子と裕介は車からなかなか降りてこない。


「アンタたち何してるの?早く二人で行きなさいよ」

「えっ?」


 玲子がそんなことを言ってきたので思わず、声が漏れてしまった。


「えっ?じゃないでしょう?二人で行かないでどうするの!」


 早く行きなさいと玲子に急かされて楓と二人で初詣に向かう。

 隣を見ると、ブランドの髪の毛で着物姿がとても似合う超絶美人の子が俺の隣を歩いているという時点で、すでにおかしいのだ。


「ふふっ、やっと二人きりになれましたねっ」

「・・・・・・はいっ?どういうこと?」

「あっ?!いえっ!その、やましい事ではなくてですねっ?!二人で初詣には行きたいなぁと思っていたんですっ」


 頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに顔を少し下げながら言ってくるので、ズルい、とてもズルい。


 可愛いがすぎる。


「あっ!あれっ、おみくじ引きましょうよっ」

「ん?あぁ、いいけど」


 おみくじを引きたくてしょうがないのだろうか、我慢ができない子供のような感じだった。


 蓮がゆっくり歩いていると、腕を引っ張られ、早く歩けと言われているのではないかと思ってしまった。


「せーのっ!で開けますよ?」

「分かってるって」


 (実際今の「せーの」で開けそうになってしまったことは黙っておこう)


「せーのっ!」


 おみくじを二人同時に開けると、なんと大吉だった。


「やったっ!大吉ですよっ?!見てくださいっ!」


 そう、大吉だったのは楓の方だ。蓮の方はというと、大凶だったのだ。

 蓮はおみくじというものはあまり信じてないが、こうもはっきりと大凶を見せられると、なかなか心にくるものがある。


「大凶・・・・・・初めて見ました」

「俺も初めてだよ」

「な、なにかいい事ありますよっ!

「大凶なのにか?おみくじには全てにおいて悪いと書いてあるぞ?」


 楓は少し、考えて何か思いついたかのような表情をしていた。


「ちょっとしゃがんでくださいっ」

「ん?こうか?」


 その瞬間頬に柔らかいものが当たった感じがして楓の方を向くと楓は唇を手恥ずかしそうに手で隠していた。


 頬にのだ。そんなことを好きな人からされて、心臓がバクバクと楓にも聞こえるんじゃないだろうかもう心配になってきた。


「大凶ですけど、恋愛面は大吉ですねっ」

「・・・・・・はぁ、そうだな」


 俺は赤くなっている顔を手で必死に隠した。


「あっ!今度はお参りしましょうよ!」


 そう言って楓は俺の腕をまた引っ張ってくる。最近の楓には、どうも勝てそうにない。

 それどころか、かえちにあってしまいそうで怖い。


「恋愛面は大吉・・・・・・か」


 やはり蓮はおみくじはあまり信じないとまた強く思った。

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