第40話 あなたが必要なんです

 俺は元カノと会った時、声が出なかった。まさか会うと思っていなかったのだ。


「久しぶりね?蓮なにしてたの?」

「・・・・・・別になんでもいいだろ」


 俺の声は震えていた。その声を聞いて元カノは、手を口に当ててくすりと笑う。

 

 こういう仕草も前は好きだった。しかし今は全てが嫌いだ。


 楓が、俺の手を握ってくる。楓の方を見ると楓が心配そうな顔で俺の方を見ていた。


「大丈夫だよ、ちょっとあの子に話があるから、楓は先にあそこのベンチに座っててくれ」

「・・・・・・ダメですっ、蓮君が心配です」


 やはり、楓も気付いていた。蓮の目の前に立っている女性が蓮の元カノだということに。

 蓮が何度大丈夫と言っても、楓は聞こえないフリをしている。


 その様子を見て、元カノがさっきまではクスクス笑っていたのに、ケラケラと笑い出した。


「なに?あんた達付き合ってるの?」

「いや、付き合ってはない」

「だよねー!蓮がそんな美人と付き合えるわけないもんね、私に振られた男のくせに」

「・・・・・・・・・・・・」


 たしかに、俺はコイツに振られた。友梨奈ゆりなという中学時代の彼女に。

 なにか、言い返したかった。しかし言い返そうとすると、トラウマが蘇ってくる。本人を目の前にしているからか、声も出なかった。


「そういえば、あんた私と別れる時なぜか聞いたよね?その理由教えてあげるわ!ちょーおもしろいから!!」

「面白い??」


「あんたはね、私と大吾君が付き合うための過程に過ぎなかったのよ!」

「それどういう・・・・・・」


「大吾君って匂わせる割にアタックしてこないから誰かと私が付き合えばアタックしてくれるかなぁって思ったら、予想通りグイグイ来てくれた、アンタの助けなんていらなかったわ、それで私がアンタと別れたって言ったらすぐに付き合ってくれたわ」


 あはははっ、とお腹を抑えて笑っている友梨奈の言葉に俺は理解出来なかった。 

 大吾は俺の元親友だった男で、友梨奈は大吾と付き合う為に俺と付き合った??


 もし、今言ったことが本当だとしたら、俺は俺は最初から恋をしていると勘違いしていたのか・・・・・・


「アンタが大吾君に話したからすぐに別れることになっちゃったけど・・・・・・本当に最悪」


 と言って友梨奈は俺の方をあの時の同じゴミを見るような目で俺をにらみつけてくる。

 その瞳に少し肩をビクッとさせてしまう。


 友梨奈がコツコツと近づいてくる。そして、俺に指差して


「アンタなんて!最初から、いらなかったのよ!私と大吾君の恋の邪魔して!もう二度と顔を見せないでっ!」


 二度と見たくなかったのはこっちだった。そんなことも言えず俺は、ただただ黙っているしかなかった。


 こんな自分が情けなかった。変わったと思った自分がいた。新しく好きな人ができたから強くなれたと思った。けど現実は何一つ変わってない、ただのヘタレだった。


「でも、本当おもしろいわね、大吾君最初から私のこと好きだったのに、アンタと付き合ったって言った瞬間、目の色変わったわよ?本当はアンタのこと、嫌いだったんじゃない?」

「・・・・・・そんなこと」

「あるわよ、アンタなんて



 それを聞いて、遂に俺の中でグシャッと何かが壊れる音がした。なにが壊れたかは分からなかった。けど、全てがやっと終わる気がした。


 俺が友梨奈に背を向けて、歩こうとすると、楓が何故か友梨奈に近づいた。


 その数秒後バチンッ!という、物凄い音が後ろから聞こえた。

 思わず振り返ると、友梨奈が頬を抑えていて、楓がした後だった。


「ちょっ・・・・・・あんた、なにすんのよっ!」

「ごめんなさいっ、あまりにも気分が悪かったのでついビンタしてしまいました」


 友梨奈も流石に黙ってやられるわけもなく。楓にビンタを仕返す。


「これで、お互い様ですねっ、それでは冷静に話をしましょうか、あなたに蓮君の良さは分かりませんというか、分かって欲しくありません」

「はぁ?そいつにいいところなんて・・・・・・」


 それを聞くと楓は胸に手を当てて、思い出すかのように、瞳を閉じて語り始めた。


「いっぱいありますよっ、夜の仕事を強要してくる父親から精一杯守ってくれたり、自殺しようとしていた女の子に優しい言葉をかけてくれたり、帰る場所のない女の子を部屋に泊めてくれたり、あなたには絶対分かりませんよ」


 その言葉を聞いて、俺の中で壊れた何かが、修復されてきた。

 こんなにも暖かい言葉が心に響くなんては、思っていなかった。


「アンタは、さっきから蓮のなんなのよ!」

「蓮君は


 唐突の告白に俺は戸惑とまどいを隠せなかった。それは友梨奈も同じだった。


 友梨奈は、はぁっーーと息を吐いて、呆れたような表情で


「アンタたちキモいわ、帰る」


 そう言って、振り返って楓から離れていくところをただ背中を眺めるしかできない。


 それではダメだと、今ここで変わるんだと、自分に言いかけた。

 そして、蓮は一歩前に踏み出し


「友梨奈っ!」

「今度はなによ・・・・・・」

「俺は・・・・・・早坂蓮は友梨奈がそれは変わらない、ずっと未練みれんがあった。けど、それも今日で終わりにする」


 それを聞いて友梨奈はキモッと言ってコツコツとさっきよりも早足で帰っていった。


 残された蓮と楓は、予定通り、ベンチに座った。


「楓、叩かれたところ痛くないか?」

「全然大丈夫ですよっ!それより蓮君の方こそ」

「楓が俺の言いたいこと全部言ってくれたからな」


 楓は蓮の顔を覗き込み、蓮の目をジッと見ている。するとニッコリと蓮に向かって笑いかけてくる。


「さっきあの人は蓮君は要らないと言っていましたが、そんなことは絶対にないですよ?」

「分かってるよ・・・・・・」



 分かったと言ったが、流石に要らないと言われるのがこんなにも辛いことだとは思わなかった。


「まだ分かってないですねっ・・・・・・」


 すると楓は急に立ち上がり、蓮の目の前に立って真剣な眼差しで蓮を見つめている。


「前に、蓮君が私に言ってくれた言葉を今ここで返します」

「言葉?」


 俺が前にかけた言葉・・・・・・頭が回らないせいか全く、分からなかった。



「私があなたを必要としています、私にはあなたが必要なんです」


 その言葉は俺が前に楓にかけた言葉だった。それを聞いた瞬間、俺は瞳が潤っていることに気づいた。危うく泣くところだったのだ。


 楓はそれを言ったあと、手を頬に当てて、顔を真っ赤にして


「やっぱり、恥ずかしいですねっ」


 と一言だけ言って、また俺の隣に座る。


「恥ずかしいって、前に俺が言ったのも恥ずかしい見たいじゃん」


 実際恥ずかしいけど、とだけ付け足して、冬の冷たい、風に肌が触れる。


 しかし、なぜか心はとてつもなく、暖かかった。


「ありがとう楓」


 俺はその一言だけ、楓に聞こえるように言った。





あとがき


すみません!更新遅くなってしまいました!

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