第38話 父さんとの会話

「どうしたの?急に」

「あまり喋れてなかったからね」

「そりゃそうだよ、一人暮らしなんだから」


 一人暮らし、という言葉に少し違和感を覚える。蓮は一人で住んでいるわけでなく、楓の一緒に暮らしている。


「親としてはね、心配なんだよ」

「・・・・・・・・・ごめん」

「謝ることじゃないさ、学校は楽しくやってるんだろ?」

「うん・・・・・・楽しい」


 それを聞いて祐介は「よかった」とニコッと笑った。両親にはとても迷惑をかけてきた。心配するのは当然だ。


 地元を離れた理由は、元カノと親友とあったら今度こそ、自分の中の何かが壊れるといった恐怖心があったからだ。


 それに、地元に残ってたら楓にも会えてなかったし、楓も俺と会えていなかったらどうなっていたか分からない。


「後悔はしてなさそうでよかった」

「するわけないよ・・・・・・」


 祐介は安堵したように息を吐く。


「話変わるけど、同居生活はどうなの?」

「んー、まぁ仲良くやってるよ」

「蓮?本当に聞きたいんだけど付き合ってないんだよね?あれで」

「うん、まだ」


 蓮は付き合ってはないが、まだという言葉を最後に付け足した。


「蓮は楓さんが好きなのかい?」

「うん、好きだよ」


 俺は祐介の問いに一切の迷いなくと答えた。

 すると、祐介は目を丸くしたあと、ふふふ、と笑っていた。


「なんで笑ってるの?」

「息子の成長を感じてね」

「そりゃ、無駄に歳を取ってるわけじゃないよ」


 それを聞いて、また一段と大きな声で祐介は笑う。祐介はワイングラスに入った、赤い液体を口にクイッと流し込む。


 そして、真っ直ぐ蓮の方を見る。その圧に思わず生唾を飲み込んだ。


「楓さんのお父さんは楓さんを要らないと言ったそうだね、それについては間違いはないかい?」

「間違いないよ・・・・・・」

「そうか・・・・・・それは辛かっただろうね、まだまだ人生は長いから、これから幸せになって欲しいね」

「俺もそう願ってるよ」


 自分が幸せにしたいとは言えなかった。あくまで蓮は楓が幸せになってくれれば満足だった。


「蓮?一つだけこれは父さんじゃなくて、男として、人生の先輩として、アドバイス」


 と言って、ワイングラスをテーブルにコトッとゆっくり置く。


「蓮のために、一緒に泣いたり笑ったり楽しんだり時には怒ったりしてくれる女性を


 その言葉はとても重く感じた。父さんじゃなく人生の先輩目線としてアドバイスをもらったからなのかは分からないが。


 祐介のその言葉を聞いて、真っ先に頭に浮かんだのは楓だった。


 一緒に笑いもした、怒られたりもした、俺のために泣いてくれた。


 祐介の手放してはいけない条件が全て揃っている。やはり、楓は自分で幸せにしたいと、前より強く思った。


「とりあえず、楽しそうで何より、蓮とも久しぶりに話せてよかったよ」

「他にも聞かないの?」

「んー?多分、変な気は起こしてないから大丈夫だろうと、あとは、女性は嫌な人ばかりじゃないよ」


 その言葉は、トラウマを克服こくふくしないと前に進んだとしても、壁は越えられないよという遠回しの言葉だったのかもしれない。


 ただの蓮の勘だが、祐介はそう思ってるんじゃないかと、思っただけだった。



「あっ、そうだ飲み物取りに来たんだ」

「ん?蓮も一緒に飲むかい?」


 そう言って、ワイングラスを持って中に入ってる赤い液体を揺らしている。


「いやいや!?俺まだ未成年だけど!」

「それがどうした?」

「どうしたって・・・・・・父さん酔ってるだろ」

「はっはっはっ、酔うわけないだろう、果汁100%のブドウジュースで」

「だから、ワインは・・・・・・・・・えっ?ブドウジュース?果汁100%?」


 ほらっ、と見せてきた紙パックには、でかでかとブドウが映っており、大きな文字で果汁100%と書いてあった。


 だんだんと自分が恥ずかしくなってくる。


「というか、それに入れて飲むなよ!紛らわしい」

「別にいいだろう?雰囲気を楽しんでるんだよ」

「そりゃ、いいけど・・・・・・びっくりしたんだよ」


 それを聞くと祐介はごめんごめんと、言ってまた一口飲む。


 俺はコップに麦茶を入れて、また二階の自室へ戻った。


 

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