第37話 怖がりな天使様と蓮の過去
ご飯を食べた後、玲子に質問攻めをされると思っていたが、祐介の提案で今日はみんな疲れてるだろうということで、それぞれの時間を過ごすこととなった。
俺は久しぶりに自分の部屋で、マンガ本を読んでいた。最新刊はまだ出ていないので、早く続きが読みたい。
しかし、焦ってもマンガが出るわけでもないので、違うマンガを手に取ると、コンコンと蓮の部屋を誰かがノックしてくる。
「開いてるぞ?」
「失礼しますっ」
扉を開けて入ってきたのは、しかし、クッションを抱きしめて、体を震わせながら、今にも泣きそうな瞳で、蓮の部屋に入ってくる。
蓮は楓の様子を見て、思わず目を丸くした。
「とりあえず・・・・・・座れ」
「はい・・・・・・」
そう言って、楓はちょこんと床に正座している。別にベッドに座ってもいいのに、と思ったが楓の表情を見るに今はそれどころじゃないらしい。
「なにがあったんだ?」
「さっきまで・・・・・・雛ちゃんの部屋で映画を観てて・・・・・・」
「へー、どんな映画?」
「ゆ、幽霊とか出て・・・・・」
ホラー映画を観ていて、蓮の部屋にノックして、泣きそうになりながら入ってくるなんて、考えなくても、わかることだった。
「怖くなったと」
蓮がそう言うと、可愛らしい天使様はコクコクと頭を上下に振っている。
「えっ?でも雛と観てたんだよな?」
「雛ちゃん途中というか、開始10分くらいで寝ちゃって、私は逆に眠れなくなっちゃって・・・・・・」
「あー、そういうことか」
その時、ガタッと机から物を落としてしまったのだが、その音を聞いて、楓は「ひゃあっ!?」と言った悲鳴なのだろうが、とても可愛らしい声をあげていた。
そんな様子で楓を見ていたのだが、楓は少し不機嫌になり
「なんで笑ってるんですかっ、まさか、私が怖がってる姿見て、面白がってます?」
「すまん、そんなつもりは・・・・・・」
まさか、可愛いとは思ったが、顔にまで出ていたとは、それもよりによって楓に指摘されたのが恥ずかしい。
「あのっ・・・・・・もし、よければ一緒にいてくれませんか?」
「断ると思うか?」
「蓮君は優しいので、断らないと思いますっ」
「・・・・・・まぁ、俺も昼寝したからあんまり眠くないし、楓が眠くなるまで話そうか?」
すると楓は、さっきまでしょんぼりしていた表情がいきなり、きらきらと輝いていた。
「じゃ、じゃあお願い・・・・・・します」
クッションをギュッと抱きしめて、頬を赤らめていた。
その姿はやはり、どの女性よりも可愛いと思ってしまう。これが恋というものなのだろうか、しかしまだ自分に自信が持てないのだ、また過去と同じことを繰り返すのではないかと思うと怖くなる。
このトラウマを克服しない限りは、楓に気持ちを伝えることなど、できるわけないと思っていた。
やはり、過去のことを話した方がいいのだろうかそんなことを考えていると、楓が蓮の手にそっと、手を添えてきた。
「楓・・・・・・?」
「私にできることがあったら、なんでも言ってくださいねっ?」
と、蓮の目を真っ直ぐみて楓は言った。
蓮は深呼吸をして、フッーと息を吐いた。少し唇が震えるのがわかる。
「これは俺の独り言だから、気にしないで」
そう言って、俺は過去のトラウマを、家族以外で初めて人に話す。それを楓はただ、黙って聞いていた。
元カノの事、親友のこと、クラスのみんなのこと全て話して、少しだけ楽になったと思ったとき、隣でグスッと鼻水を啜る音が聞こえて、楓の方を見ると、楓がぽろぽろと綺麗な瞳から涙を流していた。
びっくりして、思わず立ち上がった時に机に膝を思いっきりぶつけてしまった。
痛みに悶えていると、楓が俺の顔を自分の胸に寄せてきた。その時にむにゅうという柔らかさと共に、フワッといい香りがした。
「な、なにして!」
「辛かったですねっ・・・・・・ぐすっ」
そう言われて、俺はなにも言えなかった。本当に辛かったのだ、誰かに救ってもらいたかった。自分は悪くないと、蓮は悪くないと言って欲しかった。
「・・・・・・・・・」
「話してくれて、ありがとうございますっ」
そう言って楓は蓮の事をギュッと強く抱きしめる。しかし、痛みは全くないそれどころか、胸の柔らかさで気持ちがいい。
「あぁ、今まで辛かったけど、・・・・・今、だいぶ楽になったよ・・・・・・」
やっぱり、楓には敵わないと感じてしまう。俺は最初にあった時から、俺は変わり続けていたのかもしれない。
怖がっている楓の事を慰めるつもりが、逆に慰めてもらってしまった。
そのあと、蓮の分まで泣いていた楓は、泣き疲れたのか、俺のベッドですぐに寝てしまった。
(ベッド・・・・・・取られちゃったな・・・・・・)
俺も男なのに、こんなに無防備でいいのかよと思いながらも、楓にとても感謝していた。
ゆっくりと、楓を起こさないように、自室の扉を閉め、一階に飲み物を取りに向かうと、父の祐介がリビングで座っていた。
「蓮、久しぶりに親子同士で話さないかい?」
「えっ?いいけど」
そう言って俺は祐介の座っている向かい側に座る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます