第32話 楓のいない日②

「えーっと、卵と・・・・・・牛乳と」


 そんな感じで、慣れない手つきで買い物をしている蓮だったが、あるものに目が止まった。


「カップ麺・・・・・・お惣菜・・・・・・」


 やはり、好きなものは目に止まってしまう。そして楽で簡単で安いこんなにも一人暮らしの味方はいないと思って、買い物カゴに入れようとしたが、今日は自分で料理を作ると決めたので、そっと元の場所に戻す。


 そのあと、もう少し必要なものをカゴに入れて会計を済ませて、少しゆっくり家に帰る。


 一人でスーパーまで来て、家に帰るというのは、前の自分ではほとんどありえない話だったから、少しだけ、新鮮だったのだ。


 もう時刻は夕方だ、膨らんだエコバックを片手に家に帰る。


「買い物行くだけでもしんどいな」


 はぁ、とため息をらしながらも、手洗いうがいをきちんとして、それからキッチンに立つ。

 エコバックの中身を取り出してテーブルに置いていく。



 (さてと・・・・・・作りますか・・・・・・)


 そう言って、ご飯にケチャップを入れて、混ぜたらケチャップライスの完成、そこに炒めたソーセージをいれて、ご飯は完成。


 次に、卵を割っておわんに入れて、箸で混ぜてフライパンで熱して、少し硬くなってしまった卵をさっきの、ケチャップライスの上に乗っけたら、即席男のオムライスの完成。


 中々いい出来なので、楓にも見て欲しかった。


「案外うまい」


 食べてみたら予想以上に美味しかったので、今度はもっと上手く作り、楓にもご馳走ちそうしてやろうと思った。


 次にお風呂の準備・・・・・・と思ったが、今日はシャワーだけでもいいかと楽な方を選んだ。



 時刻は21時を過ぎてシャワーもびて髪の毛をかわかしている時、蓮のスマホに着信があった。


(誰だ?こんな時間に・・・・・・)


 スマホを覗くと千夏からだった。まさか俺をからかうために、電話をかけてきたのではないだろうなと思い、一度は無視むししたものの、またもやかかってきたので、しょうがなく電話に出た。


『はい、もしもし?』


 俺は少し機嫌きげんが良くないような感じで電話に出る。

 すると蓮のスマホからは千夏の無邪気むじゃきというか俺をバカにするような元気な声ではなく・・・・・・


『あっ、すみません今大丈夫でしたか?』


 『えっ?かえで?』


 俺はびっくりしてしまい、口をポカンと開けたままだった。


『でもなんで急に・・・・・・』

『理由は・・・・・・ないですっ』

『嘘だ、わざわざ千夏の携帯を借りて電話してくるとなると流石に・・・・・・』

『じゃあ、私が声が聞きたかったから・・・・・・だけじゃダメですか?』


 それを聞いて、顔が緩む、顔に熱が集中するのが分かったし何より、電話越しの楓の声は新鮮で、さらに今どんな表情をしているのかなど、想像してしまう。


 多分今頃蓮と同じく顔を赤くしているのだろうと蓮は思っていた。


 

 そのあとは少し雑談したあとに


『今度さ、オムライス俺が作ったの食べてみて結構上手に作れたから』

『ふふっ、ちゃんとお料理したんですねっ!えらいですっ』

『あぁ』

『じゃあ期待しておきますね?』

『任せろ』


 と最後に『おやすみなさい』と言って電話を終わる。30分以上も電話をしていた。

 しかし、体感は5分くらいだったのだ。それほど楓と話している時、時間が過ぎるのが早く感じてしまう。


 まだ顔は熱いままだし、心臓はバクバクしていた。


「冬だけど・・・・・・冷房つけたほうがいいかな?」



 そんなことを言いながらエアコンのボタンを見つめている蓮であった。


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