第33話 楓とのお喋り
「どうだった?」
帰ってきて、ソファで横になっている楓に蓮がそう聞くと、楓はニッコリと笑って
「とても楽しかったですっ!」
「それはよかった」
「はいっ!」
嬉しそうに体を揺らしている。
二人とも仲良くなって、とてもよかった。千夏は誰とでも仲良くなれるので、心配はしていなかったが、楓がとっても嬉しそうに返事をするものだから今度千夏にアイスでも奢ってやろうと思った。
「どんなこと話したんだ?お泊まり会で」
「えっと・・・・・・どういう暮らしをしているのか、とか家事はどうしてるの?とか、ですかね・・・・・・」
「まぁ、無難だな」
千夏も当然の質問といえば当然だが、もっと女の子らしい会話はなかったのだろうか。
「あとは・・・・・・・・・」
「あとは?」
「や、やっぱりダメですっ・・・・・・」
そう言って楓はクッションに顔を埋めて、そのあとの事は蓮には話してくれなかった。
あんまりしつこく聞くのもアレなので、蓮は話を変えた。
「そういえば、オムライス作ったんだぞ」
蓮が楓がお泊まりに行っている間にオムライスを作ったと報告すると、楓はクッションから顔を出した。
まだほんのり赤くなっている頬を蓮に見せながら
「ふふっ、カップ麺にしなかったのはえらいです」
「まぁ、たまには・・・・・・な」
「えらいえらい、ふふふっ」
そう言って俺の頭を小さい手で撫でてくる。楓は俺のことをどう思っているのだろうか・・・・・・
「俺のこと子供扱いしてるだろ」
「あらっ、そんなことないですよっ?最近私が起こすと、寝ぼけているのか私に抱きついてきて、子供みたいだなぁ〜なんて・・・・・・ね〜?」
「はっ?ちょっと待てそれどういう・・・・・・」
嘘なのか、嘘じゃないのか蓮には分からなかった。寝ぼけているのだからその時の記憶がない。本当だとしたら、恥ずかしすぎる。
そう思って楓を見ると、小悪魔のような笑みを浮かべていた。
「ふふっ、冗談ですよっ」
笑いながら楓は言っているが、心臓が飛び出るかと思ったので、あまりそういう心臓に悪い冗談はやめてほしい。
しかし、もし抱きついているとしたら・・・・・・などと考えてしまう。考えている最中ずっと顔は熱いままだった。
「そういえば、もう少しで実家に行くけど大丈夫か?」
「大丈夫ですっ」
「そっか・・・・・・行きたくなかったら留守番しててもいいんだぞ?」
と言っても置いていくのが心配だったから、一緒に行く提案をしたんだが
「そんなことないですっ!とても・・・・・・とても楽しみなんですっ」
その表情には、楽しみという表情にも見えたが、どこか哀しい表情にも見えた。
それもそのはず、親と聞いたら誰しも自分の親は連想するものではないだろうか、楓も今思い出していたのかもしれない。
「大丈夫か?」
「はいっ、少し思い出してまして」
「父親か?」
「いえっ、母のことを・・・・・・」
「そっか・・・・・・相談したいことがあれば言えよ?」
「はいっ!でも本当に大丈夫ですっ」
と蓮に笑顔を見せるが、やはり楓の表情は笑っていない。蓮に心配させない為だと思うが、そんな表情を見せられたら余計に心配してしまう。
「別に無理に笑わなくていいぞ」
「・・・・・・・・・はい」
少しの間、リビングが
別に笑えない時は笑わなくてもよい、その代わり心の底から笑える時に今日笑えなかった分も笑えばいい、蓮は楓にそう伝えた。
しかし、楓は疲れていたのか、クッションを抱きしめながら、スースーと寝息を立てて眠っていた。
その時、瞳から一粒雫が垂れていた。
「楓・・・・・・」
そういうと楓は、なにかうなされているのか
「んー、ん」などと言っている。
「お母さん・・・・・・お父さんが言ってたこと嘘だよね私信じてますから・・・・・」
それを聞いていた俺も辛かった。俺はそっと寝ている楓を抱きしめた。
そっと抱きしめたはずなのだが、楓は俺の腕の中で、もぞもぞと動いて目を覚ましてしまった。
「あれっ?私、寝てた・・・・・って!?何やってるんですかっ!」
「んー?俺もさっきまで寝てたから、寝ぼけてるのかもしれないなぁ」
「そこまで頭回るのなら寝ぼけてないですっ!」
もうっ、と言いながら頬を赤くしている。俺は抱きしめていた手を戻して、立ち上がる。
「それじゃあ俺は風呂に入ってくるかな」
そう言うと、楓は「あっ・・・・・・」と小さく言ったあと俺の服の
俺が振り向くと楓は大きな瞳とブロンドの髪の毛を揺らしながら、上目遣いで俺を見てきた。
「まだお話したいので、行かないでくださいっ」
そんなことを学校一の美少女しかも、自分が好意を寄せている女子に言われて、「無理だ」なんて言える高校生がいたら、紹介してほしい。
蓮は当たり前のように腰を下ろして
「今日はとことんお喋りに、付き合ってやるぞ」
「ありがとう・・・・・・ございますっ」
そのおしゃべりは、かなり長く続いて、夜中一時まで続いた。
そのためその次の日はぐっすり眠っていた。
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