第31話 楓のいない日

「じゃあ行ってきます・・・・・・」

「おう、行ってらっしゃい」


 今日は千夏の家でお泊まり会らしいのだが、玄関で「行ってきます」と言ったくせに、中々家から出ようとせず、俺の方をチラチラとみてくる。


 その表情は子供を家に留守番るすばんさせておく不安な母のような目だった。


「おい・・・・・・遅れるぞ」

「あっ、はい・・・・・・でもっ」

「なんだ?」

「昼ごはんは冷蔵庫に入ってますけど、晩ごはんの分は・・・・・・」


 やはり心配していたのか、というかもう高校生なのだから、そこまで心配をされる必要はないと思った。


「大丈夫だよ、簡単なの作るから」

「カップラーメンなんて、言わないですよね?」

「・・・・・・・・・あぁ、言わないよ?」


 楓とは目を合わせないで言う。


「もうっ、カップラーメンだけじゃ食べ盛りの高校生はお腹いっぱいにならないでしょう?」

「その時はもう一個食えばいい」

「・・・・・・わざと私に怒られようとしてます?」

「・・・・・・半分冗談」


 ええっ?と言いながら楓は眉を寄せて目を細くしている。そのあと、「仕方ないですね」と言い今回だけは見逃してくれるそうだ。


 楓がいるといつもご飯を作ってくれて助かっているので、カップラーメンを食べなくてもお腹いっぱいになるのだ。


 以前カップラーメンを食べてるところを見られたとき、体に悪いと叱られた時がある。


 しかしその時は自分の食べたいものを食べさせてくれと考えていたが、今はもう楓の手料理の虜になってしまっていたので、カップラーメンよりは楓の料理が食べたいと未開封のカップラーメンを見つめながら思った。


「では、行ってきます・・・・・・」

「楽しんでこいよ」

「それは・・・・・・もちろんです」

「帰っていたら話聞かせてくれよ」

「ふふっ、はいっ!」


 満面まんめんの笑みを俺に見せながら玄関の扉を閉める。扉がガチャンッと閉まった時、少しだけさびしさを感じてしまった。


 今日はバイトも休みなので、家でまったりできるのだが、最近はハマっているアニメを観て一日を探している。


 アニメを観ながら思っていた。自分の部屋がこんなにも広く、静かに感じたのはとても久しぶりだったと。


 (お腹空いたな・・・・・・)


 そう思った時はもう12時を回っていた。


 冷蔵庫を開けて、楓が用意してくれたお昼ご飯をレンジで温める。


「えっと牛乳は・・・・・・」


 冷蔵庫を探したが牛乳がなかった。


「楓ー?牛乳は・・・・・・って居ないんだった」


 つい、いつもの癖で楓に聞いてしまった。変な感じになり、ぽりぽりと首をかく。


 なんだか調子が狂うと思いながらも、仕方ないので、牛乳ではなく、コップに水を入れて昼ご飯の準備をした。


「ん、美味い」


 いつも通り、とても美味しいご飯を食べて、美味しいとも思ったがそれと同時になぜか安心もしてしまった。


 ご飯を食べ終わっても、静かなのは変わらない、楓のあの可愛らしい表情がいつもはすぐ見えるのだが、今日は見えない。


 同じ空間に居ないのが逆に不思議ふしぎなくらいだった。


 気をまぎらすために、ゲームなどもしたが、全然ダメだった。


 これが恋というものなのだろうか、元カノともこんな感じだった。メールは待ち、すぐには既読きどくをつけないそんな感じだった。


(今頃千夏の家に着いた頃かな・・・・・・)


 やはり楓の事を考えてしまう。やはりなのだ、自分でも不思議だった。ここまで、楓との同居生活に満足していたとは。


 そして、満足しすぎて、楓が一日居ないだけで、こんなにも寂しいとは・・・・・・


「ていうか、千夏のやつ楓に変なこと教えないだろうな・・・・・・」


 心配だ・・・と天井てんじょうを見つめてボソッと呟く。


「買い物・・・・・・行くか」


 重い腰を持ち上げ、財布とエコバックを手に取り、近くのスーパーまで、行くことにした。


 カップ麺だけでは、お腹いっぱいにならないし、楓に怒られるのは、怒ってる楓がとても可愛らしいから、見ていたいのだが、心配させるのも嫌だし、なにより、蓮も料理をできるようにはなりたいと思っていたのだ。



 玄関に鍵を閉め、スーパーまで買い物に行く。


(何がいいかなー・・・・・・ダメだ全然思いつかない。献立決めるのってこんなに難しいのか・・・・・・)

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