第28話 自分の気持ち

「お待たせ」


 少しだけオシャレをして、楓に声をかける。すると楓はびっくりした様にポカンと口を開けている。


「どうした?」

「いえっ、そのいつもと雰囲気が・・・・・・」

「あぁ、なるほど」


 前髪はワックスで少しだけ上げて、服装はいつもはジャージとかだが、蓮も出かける時くらいは身だしなみにも多少は気を使うのだ。


「ウチの母親が、身だしなみとかにはうるさいから、毎回言われたくなくて気をつけてたら、こうなった。変か?」


「いえっ!変じゃありませんよ?・・・・・・むしろカッコいいですっ」

「っ!?・・・・・・お世辞はいいから」

「お世辞ではありませんよっ!」

「はいはい、行くぞ」


 俺が楓の褒め言葉を流すと楓は、もうっ!と言って頬をプクッと膨らませていた。

 自分でも、嬉しかったのだ素直に褒められたのは久しぶりだったから。


「ふふっ、なんだか、二人でお出かけって、あの日以来な気がしますっ」

「あぁ、下着とか買った時か」

「・・・・・・服って言ってくださいよ・・・・・・」


 服も買ったが下着も買っただろと言うと、「そうですけど、恥ずかしいんですっ!」と言ってぽこぽこと肩を叩かれる。


 まぁ、たしかに俺も自分の下着を買ったと楓から言われたら不快ではある。

 素直にごめんと謝り、玄関を出る。


「イルミネーション楽しみですっ」

「あぁ、そうだな」

「あんまり興味なさそうですけどねっ」

「怒るなよ・・・・・」

「別に怒ってませんよっ、一緒に行ってくれるだけでも嬉しいので」


 そう言って、俺の隣でニコニコしている楓を見て蓮は、もし俺が元カノと会う前に楓と会っていたら人生が変わったのだろうか、もう少し、女性を好きになれたのだろうか。


 もし好きになるとしたら誰なのだろうか、そんなことを考えていた。


「あっ!見てくださいっ!雪だるまですよ!」


 と、楓は無邪気に公園にある雪だるまに指をさす。


「あぁ、そうだな、カップルが作ったのか?」

「・・・か、カップル・・」


「だってそうだろ?二つあるし、一つはなんか綺麗に作られてて、もう一つはただ大きくしただけ、みたいな雪だるまじゃん」


 カップルが作っていてもおかしくはない。


「クリスマスかぁ、もうそんな時期なんだな」

「はいっ、早坂君と出会って色々ありました」

「そうだな」

「本当に感謝だけでは足りないんです」

「大丈夫だよ・・・・・・感謝されたくて、したわけじゃないし」


 それを言うと、手を口に当てて、微笑む様にふにゃっと笑い、俺の目線を釘付けにした。


「ふふっ、やっぱり優しい」

「別に・・・・・・優しくなんか」

「優しいですよっ?それは早坂君は分からなくても、私が分かっていればいいとは思いませんか?」

「・・・・・・・・・」


 俺は頷くことしかしなかった。



          ◇ ◇ ◇


 歩いていると、だんだんと人が多くなってくる。やはりクリスマスということもあり、人が多いのだろうか。


 イルミネーションもちらほら見えてくる。それを見て楓は隣で瞳をキラキラ輝かせて見ている。


「見てくださいっ!すごいですよっ!」

「あぁ、でももっと凄いのがもうすぐあると思うけど」

「そうなんですかっ?早く見たいですっ」


 ワクワクが止まらないといった感じだった。


「もう少しかな」

「もう少しで、早坂君が言う凄いイルミネーションがみれるんですねっ?」

「まぁ、俺は前に見てるから凄いってなるけど2回目は感動が薄れると思うからなぁ」

「大丈夫ですっ!今年も感動できますよ!」


 キラキラと瞳を輝かせて俺に言ってくるので、少し顔を引き攣りながらも、「そ、そうだな」と言ったが、本当に感動できるのだろうかなどと考えていた。


 前感動したのは、イルミネーションを見ている元カノの姿がその時はあまりにも綺麗だったから、感動しただけで、イルミネーションには・・・・・・


 なんて思っていると隣から


「見てくださいっ!凄いですよっ!」

「あー、はいはい、今見るか・・・・・・ら」


 その時目にしたのは、その辺りいっぱいに広がる綺麗なイルミネーションだった。あまりにも多い光の数に最初はびっくりして、その後にその美しさにも驚いた。


 前来た時はこんなこと・・・・・・なかったのに・・・・・・


 その時隣で、瞳をうるうるさせている楓がいた。感動して泣きそうになっているのだろうか、たしかに、この美しさは改めて感動する。


「大丈夫か?」

「あっ。はいっ、だ、大丈夫です・・・・・」


 楓の事を心配すると、上から冷たく白い物が落ちてきた。

 、雪が降ってきたのだ。イルミネーションの光と自然の美しさが合わさってとても綺麗だった。


 俺はそして少しだけ後ろに下がり、後ろから楓とイルミネーションを眺めていた。


 すると楓がクルッと周りこちらに微笑みながら


「どうですかっ?感動しましたか?」

「あぁ、とても・・・・・・前見た時よりもずっと・・・」

「それはよかったですっ」


 それを聞くと、楓は満面の笑みをこちらに向けた。その時イルミネーションが一際光ったような気がする。実際にはそんなことはないのだが、楓の笑顔が眩しすぎて、余計に光った気がしたのだ。


 その時、蓮は確実に胸がドキッとするのがわかった。いつまでも鼓動が速くなるばかりだった。

 手や指は冷たいのに、顔には熱が集中した。蓮、自身も分かっていた。


 これがもう楓に対するだということを・・・・・・しかし、今まで自分に嘘をついていたのだ。


 俺はあんな風にはなりたくない、彼女なんて作らなければよかった。


 しかし、今度こそ本当に幸せにしたい人に出会えたかもしれないと、心のどこかで思っていたのを、隠してきたのだ。


 

 

「綺麗だよ・・・・・・」

「ですよねっ?!イルミネー・・・・・・」

「楓がだよ」


 楓の言葉を遮るように俺が言うと、楓はマフラーで顔を隠している。


(あっ・・・・・・クリスマスの仕返しまだしてない)


 ふとそんな事を思い出し、楓の隣に行く。そして冷たくて、赤くなっている手を握る。


「ひぇゃぁ?!」


「な、な、何するんですかっ!?」

「えっ?イブの仕返し」


 今度は近かったのでマフラーから出た顔がよく見えた。頬を真っ赤に染めて林檎りんごのようだった。


「そろそろ帰るか?」


 と言うと、コクコクとうなずくので、手は握ったまま一緒に帰路につく。


 俺の中にあった、女性への嫌悪感がこの時少しだけもう消えていた。

 全てではない、しかし少しずつでも、前に進めたらと思う。

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