第24話 クリスマス・イブ 酔っ払いを拾いました

「後輩〜きいてぇよぉ〜」

「なんすか陽菜先輩、酒臭いです」


 強烈な酒の匂いをぷんぷんと匂わせ、俺に抱きついてくるのはバイト先の陽菜先輩、何故この人が今俺の家にいるかというと、時間は一時間ほど前


 学校から楓と二人で帰ってる途中普通の会話をしていた。


「楓、今日とか明日って予定あるのか?」

「いえっ、特には早坂君はあるんですか?」

「俺もない」

「ということは、二人きりのクリスマス・イブとクリスマスですねっ」


 何故か、マフラーに埋もれながら、ふにゃりと笑ったような目をしていた。

 口は隠れていたので、笑っていたまでは分からないが、嬉しそうにはしていたと思う。


 最近はバイトが多かったので、この2日間の休みはとても嬉しい。


 楓が、料理はとっても美味しく作ると言っていたので、いつも美味しい楓の料理がさらに本気で作るとなると、どれだけ美味しいのか少し、よだれが出てしまう。


「期待してる」

「はいっ!期待しといてくださいっ」


 そんな会話をしている途中、蓮のマンションの近くの公園で、ぎゃははははっ!などと大きな声をあげている女性がいた。


 しかも不思議なことに、そこにはその女性一人しかいないのだ。


 片手には酒のようなものを持っていたので、なんだ、ただの酔っ払いかと思い、帰ろうと無視したが楓がピタリと止まる。


「なにしてんだ?楓帰るぞ?」

「いえっ、そのあの人・・・・・・」

「あの酔っ払いがどうかしたのか?」

「あれって陽菜先輩ですよね?」


 その言葉を聞いて、まさかと思い、もう一度公園にいる酔っ払いを見ると。

 たしかにだった。流石にバイト先で何度も見ているので、間違いはしないと思った。


 どうする?と二人で見つめ合った後、二人で苦笑いしてしまう。


「とりあえず声はかけてみますか」

「そうだな」


 公園に入りブランコに座って酒を飲んでいる先輩に話しかける。


「陽菜先輩なにやってるんですか?」

「うぇー?ヒック、あぁ!こうは〜い!」


 と、いきなり抱きついてきた。その時にはもうかなりの酒を飲んだのだろう。

 ムワァッと酒の匂いがする。


「ゔっ、先輩飲み過ぎです」

「まだまだー!」

「・・・・・・先輩・・・・・・」


 これはダメだと思い、楓と少し話し合った後このまま野放のばなしにしておくのはまずいということになり、一時的に蓮の家に連れて行くことにした。


         ◇ ◇ ◇


「後輩〜きいてぇよぉ〜」

「なんすか陽菜先輩、酒臭いです」


 それで今この状況になっている。楓に助けを求めたいのだが、生憎あいにく楓は晩御飯の準備をしているので、俺一人でこの酔っ払いの相手をしなければならない。


 少々肉体的にキツくなってきた頃、楓が水を持ってやってきた。



「陽菜先輩、お水持ってきましたよ?」

「ええっ〜要らない!酒でいい!」


 それを聞いた楓は少し困った表情になったが、そのあと、「コラッ」と先輩を叱った。


「ダメでしょ?お水を飲まなきゃ」

「だってお酒の方が美味しいんだもん、」

「先輩は、後輩にカッコ悪い姿見せていいんですか?」

「カッコ悪い・・・・・・嫌だ・・・・・・嫌だっ!!」


 そう言って、駄々だだをこねる子供を上手に説得するような感じで、先輩に水を飲むよう説得した。


「じゃあ、お水飲めるね?見たいなぁ、先輩がカッコよくお水飲むところ」

「見てて!ママ!」


(たしかに先輩は酔っ払ってるし、楓も母性がとても強いけど、先輩ママって認めちゃったよ・・・・・・)


「えらい?陽菜えらい?」

「うんうん!えらいですっ」


 よしよしと先輩の頭を撫でる楓を見て、未来のことを考えてしまった。

 仮に楓に子供ができたらこんな感じなのかなと想像してしまった。とてもいい奥さんになるだろうなと思った。



 これじゃどっちが先輩か分からないなと、蓮は楓に頭を撫でられている先輩を見ながら苦笑いした。


 すると、見ていたことがバレたのか、先輩がこっちをにやにやしながら見ている。


「後輩もやられたいんだろっ?後輩もママに甘えていいぞ」

「いやっ、俺は別に・・・・・・」

「少し恥ずかしいですけどっ、早坂君が甘えたいなら存分に甘やかしますよ?」


 そんなことを言われ、一瞬だが、迷ってしまう。しかし、そんなことをされたら俺が壊れてしまう。


「俺は別に大丈夫だから」

「そうですかっ、いつでも甘やかしますから、いってくださいねっ?」

「ママは渡さん」


 いつまでママって言ってるんだこの先輩と思ったが、楓も俺が断った時、少し残念そうな顔をしていた。


 そのあと楓がテーブルに料理を持ってきて、三人で食べることになった。


 

 前は公園で天使様を拾ったけど、今回は公園で、酔っ払い(バイト先の先輩)を拾いました。

 この公園には、何か不思議な力があるのだろうかと疑うほどだった。


 クリスマスイブ、二人っきりじゃなくなったなぁと少しだけ残念に思っていた。

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