第25話 クリスマス・イブ もう一人の訪問者

「すみませんお待たせしてしまって」


 申し訳なさそうに、楓が言う。料理を出すのを遅れたのが自分では納得がいってないらしい。

 「本当ならもう少し早く出せたんですっ」と、楓が言う。


 その表情はしゅんと飼い主に怒られた犬の様な感じだった。

 こういう時、何をすれば正解なのかは分からなかったが、褒める言葉をかけた方がいいとは思った。


「料理を作ってもらってるだけで、有難ありがたいから、別に早さは気にしてないよ、いつも手間かけて作ってくれてるからとっても美味しいし」


 だから気にすんなと言いながら頭を撫でると、楓が今度は猫の様に、目をつぶりながら、頭を蓮に撫でられている。


 安心してもらっているのだろうか?そうだとしたら嬉しいのだが、この近さで改めて見ると、やはり可愛いんだなと思ってしまう。


「ママだけずる〜い、わたしもー」


 と言いながら、蓮に抱きついてくる。無理やり離そうとしたのだが、全く離れる気配がなかったので、仕方なく先輩の頭を撫でた。


 すると先輩は猫の様に、蓮の腕に顔をすりすりしてきた。

 いつもは先輩のことは可愛いなどとは思わないのだが、今日この時だけは不意に可愛いと思ってしまった。


 すると隣でそれを見ていた楓の表情はよろしくなかった。さっきまで上機嫌だったのが不機嫌になっている。


 どうした?と聞いてもツーンとそっぽ向いてしまう。これを見て蓮は二人とも猫みたいだなと思ってしまった。


          ◇ ◇ ◇


 ご飯も食べ終わり、食器を洗っている時、楓がなにやら先輩と喋っている。

 食器を洗い終わり、楓に話を聞くと楓は教えてくれなかった。しかも楓はなぜか顔を赤くしていた。


「かえでちゃん、さっき嫉妬してたんだって〜可愛いねぇーほんとかわいい」

「べ、べつに、嫉妬なんか・・・・・・」

「そういう認めないとこもかわいー」


 頬をすりすりと楓にしている先輩はだんだんと眠くなってきたのか、さっきより勢いがなかった。


「先輩は好きな人いないんですかっ!」


 楓は我慢の限界というよりも、自分の話題から話を逸らした感じだった。


「んぇ〜?私の好きな人?いるよー?」

「へっ?!誰ですかっ?!」

「後輩」


 そう言って、俺に指を指してくる。その時一瞬、ドキッとしてしまった。それは恋愛とは関係なく、ただ、があるから、不安だった。


 しかも先輩が自分にが無いことは分かっていた。

 たぶんシフト変わってくれるから好きとか言い出す。


「シフト変わってくれるから好き、後輩として」


 やっぱりと思ってふと楓を見た時、安堵したかの様に一息ついていた。

 そこまで安心してすることだろうか、と不思議に思っていた。


「恋愛感情的にですっ!やっぱり成瀬先輩ですかっ!?」


 なぜそこで成瀬先輩が出てくるのか分からなかったが、一瞬、ほんの一瞬だが楓から先輩の名前が出た時イラッとした、なぜだろうか・・・・・・


(なんだ?今の・・・・・・・・・)


「なる〜?ぶっぶー、私の好きな人はね!てんちょーなのでしたー!」

「えっ?店長??」

「なによー!」

「えっ、でも店長って・・・・・・」


 楓が驚くのも無理はない、俺も最初は成瀬先輩のことが好きなのかと思っていた。しかし陽菜先輩は本気だ。



 しかし、叶わない恋というものは辛い、なぜなら店長はなのだ。


「結婚してるね・・・・・・でもっ、好きになっちゃったのはしょうがない!0だとしても、この想いは知ってほしい」


「それにぃ、・・・・・・わたひはぁ・・・・・・」


 途中まで言いかけて寝てしまった。ここで寝られても困る気もすると思いながら、どうすることもできず楓と二人でいい案がないか考えていた。


 しかし、このままでは先輩が起きた時に、同居しているのがバレてしまう。


 どうしたものかと二人で頭を抱えていた時蓮の部屋のインターホンがなった。


「楓!ここで先輩を見ててくれ」

「はいっ、わかりました」


 楓が出たら、またなんかややこしい事になりそうだったので、蓮が玄関から扉を開けると、成瀬先輩が立っていた。


 成瀬先輩は一度蓮の部屋に遊びに来ているので、場所は分かるだろうが、なぜここに今いるのかは分からない。


「成瀬先輩っ?!何してるんですか?」

「いや、アイツ来てない?」

「アイツって・・・・・・陽菜先輩のことですか?」

「うん、そう。アイツの母ちゃんに頼まれて探してたんだよ」


「居ますけど・・・・・・寝てます」

「じゃあ、連れて帰るわ」


 連れて帰ってくれるのはこちらとしてありがたいのだが、なぜここに居るのが分かったのか不思議でしょうがなかった。


「あの、なんでここに居るって分かったんですか?なにか超能力とか?」

「ちげぇよ、アイツの母ちゃんが位置情報のアプリの写真を送ってきたんだよ」

「なるほど・・・それでここが分かったと」


 そういうこと、と言いながら成瀬先輩は息を切らしている。相当探してたんだろうな、と少し先輩に感動して泣きそうになってしまう。


 すぐに奥からまだ寝ている先輩を起こさない様におんぶをしながら連れてくる。


「ありがとな、助かった」

「いえっ、でもおんぶして帰るの大変じゃないですか?」

「大丈夫タクシー呼んであるから」

「えっ、じゃあ僕もお金出しましょうか?」

「いいって別に」

「でも・・・・・・」


 タクシー代も馬鹿にならないので、出そうかと提案したところ拒否されてしまった。

 要らないお節介せっかいだったのかもしれないと、思っていると、先輩が


「好きな女の前くらいカッコつけさせろよ」




 と言ってきたので俺はそれに黙ってうなずくことしかできなかった。

 すごくカッコいいと思ってしまった。好きな女性のためにここまでできる男性はそうそう居ないと、しかも成瀬先輩も陽菜先輩が店長のことを好きなのは知っていると思う。


 それなのに・・・・・・


(クソカッケェなこの先輩・・・・・・)


「じゃあな、お邪魔した、二人でクリスマス・イブ楽しめよ?」

「えっ?」


 と成瀬先輩は下を見てにやにやしている。靴が三足あったのだ。


 どう考えても俺のサイズではなく、女性のサイズのものが、陽菜先輩のを除いてもあともう一足あったのだ。


「聖夜の夜は、もう少しだけど、ちゃんとコンドームはしろよ?」


「せっかくカッコいいと思ったのに、台無しです!それとまだそういう関係じゃない!」

「うんうん、そうだなぁ、な?」


 そう言って先輩は蓮の部屋から陽菜先輩をおんぶして出て行った。

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