第21話 初制服、初仕事

「お待たせしましたっ」


 そう言って女子更衣室から制服に着替えて出てくる楓、髪をしばっており、ポニーテールというやつなのだろうか、その髪型と楓の美貌びぼうで、制服が似合わないわけがない。



「どうでしょうか?」

「あぁ、似合ってる」

「そうですかっ!やったっ・・・・」


 と言って、嬉しそうにニコニコしている楓を見て、やはり可愛いと思ってしまう。


 しかし、ここはバイト先で蓮の家ではないので、気を引き締めた。


 そして、まずは接客せっきゃくの練習をしてもらった。声の出し方や、言葉遣い、メニューの取り方など、先輩の蓮が一から教えていく・・・・・・


 と言いたいところだが、言葉遣いに関しては蓮よりも楓の方が綺麗きれいだし、掃除なんかは、蓮の家でやっているので朝飯前だ。メニューの取り方などもほとんど、すぐに覚えてしまった。


 あとは声をもう少し張った方がいいということ以外は、ほとんど完璧だった。


「じゃあ、空いた席の掃除をしてきて」

「わかりましたっ!」


 楓は元気に返事をし、空いている席のテーブルをせっせと布で拭いている。

 自分も呑気のんきに楓の仕事を見ている場合ではなかった。


 昼時に近づいてきて、だんだんと、客がさっきよりも増えてくる。


「蓮ちゃん楓ちゃん注文お願い!」

「はいっ、分かりました」

「はいっ・・・・・・」

「楓、いきなり本番だけどいけるか?」

「だ、大丈夫ですよっ!」


 口ではそう言っているが、楓のくちびるは震えていた、さっき見せていた自然な笑顔は消え、ぎこちない作り笑顔になっていた。


 やっぱり、天使様も人間だな、と少し安心する。何もかも完璧な人間なんていない。


「もし、トラブルとかあったら俺がいくから、楓はさっき俺が教えたことをすればなんとかなるから」


「は、はい・・・・・・」

「あと、お前は笑顔の方が、可愛いぞ」

「・・・・・・えっ?今なんて・・・・・・?」

「えっ?笑顔の方が・・・・・」


「蓮ちゃん!!」


 店長からのヘルプの声に、すぐにけつける。その時チラッと見えた楓の顔は赤かったような気がした。



「そういうのを恥ずかしがらずに言えるところ、ずるいですっ・・・・・・もうっ」



          ◇ ◇ ◇


 だんだんとラッシュを乗り切り、あと少しで、帰れる時間帯になった。


「蓮くーん!注文お願いー!」


 と大きな声で俺を呼びながら手を振っているのは、大学生くらいの女性の常連客じょうれんきゃくだ。

 なぜか、俺は気に入られてしまっている。


「この子ね、このお店初めてなんだけど、なにかオススメとかある?」

「えっと・・・・・・甘いのはお好きですか?」


 初めて来たという事は、まずは相手の好みを知ることが第一だ、そして苦手な物を出さないようにする。


「えっと・・・・・・甘いのは少し苦手で」

「では、こちらのブレンドコーヒーはいかがでしょうか、当店のパンケーキは甘いですが、ブレンドコーヒーは少し苦いので、とても丁度良いくらいの甘さになると思いますよ」

「じゃあ、それで・・・・・・」


 かしこまりましたと言い、店長に伝えにいく。店長の隣には楓がいた。

 店長と、なにやら話しているようだ。


「蓮ちゃんってモテるのよ?特に年上のお姉さんから、よくお話してるのよねー」

「そ、そうなんですか・・・・・・」


「もうっ!ちょっと嫉妬しっとしちゃって可愛いわね!」

「嫉妬なんてしてないですよっ!」

「楓ちゃんは蓮ちゃんのこと好きなのね」

「ひぇっ!しょ、しょんなこと・・・・・・」

「ウフフ、あるのね」


 店長がいきなり「いいわね!青春!」と言いながら、コーヒーを淹れている。

 楓は俺を見ると、顔を赤くして、奥の方に走っていった。


 俺は当然困惑した。店長はうるさいし、楓には逃げられるし・・・・・・なんなんだ?今日は一体・・・


 店長に注文を言うと、店長は分かったと言って、俺の方をニヤニヤと見てくる。


「なんですか」

「いやぁ、大切にしてあげなね?楓ちゃん、あんなに可愛くていい子居ないわよ?」

「いきなりなんですか・・・・・・」


 そして、大きな声で「ワタシ楓ちゃんの味方!」と言って、またまたコーヒーを淹れている。


 仕事も終わり、楓と帰ろうと、休憩室に行くも居なかった。

 まだ、更衣室で着替えているのだろうと思い蓮も急いで更衣室に入り、着替える。


 着替えて更衣室から出ると、私服の楓に戻っていた。何故か少し残念というか、もう少し制服姿を、堪能したかった蓮だった。


「さっきは逃げてしまいすみませんっ」

「いや、別に気にしてないけど」

「そうですか・・・・・・なら良いんですけど」

「じゃあ帰るかー」


 そう言うと、頬はほんのり赤く染まっていたが、「はいっ」と言ってニコッと微笑ほほえみかけてくる。


 一つわかるのは、どこにいても、天使様の笑顔は周りの人をとりこにさせるということだ。

 天使様が、笑うだけで、店の周りの人が注目するのが分かる。

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