第19話 最悪の夢

「アンタ気持ち悪いのよねぇー重いっていうか・・・・・・」


「・・・・・一度もそんな事を言ってこなかったじゃないか・・・・・・」

「言ってはないけど思ってたの」


 そんな事を言っても、浮気したという事実は変わらない。

 他の男と寝たという事実は決して消えない。


 よりにもよって・・・・・・俺の親友と・・・・・・


「てかさ・・・・・・私アンタのこともう冷めたかも」

「はっ?何言って・・・・・・」

「てかもう冷めたわ」


 その冷たい眼差まなざしで俺を見るな・・・・・頼むから、見ないでくれ・・・・・・


「あぁ、じゃあ別れるか?」


 中学生特有の意地をこの時は張ってしまっていた。カッコつけていたのだ。本当はまだ付き合っていたかった。


「えっ?いいの?やったー」

「でも、お前が浮気して他の男と寝てたって事実はみんなに伝えるけどな」

「はっ?なにそれ・・・・・・」


 怒りのような眼差しを今度は向けてくる。しかしこれには蓮も下がらない。

 こっちも睨み返すように彼女を見る。


「いいわよ!言えば?」

「あぁ、言ってやるよ」



 次の日、教室に入り俺は驚愕きょうがくした。アイツは、このクソ女は、クラス中を味方に付けてやがった。

 俺が入った時には、クラスの奴らは俺を軽蔑けいべつするような目で見ていた。


「みんな!聞いてくれっ、その女は他の男と寝てたんだよ!浮気者のクズだ!」

「クズはてめぇの方だろ!」


 そんな罵声ばせいが飛んでくる。結構仲の良かった男子からだった。

 言われた途端頭が混乱していた。どう考えても、元カノの方がクズなのに、俺がクズ呼ばわり?


「お前のこと愛してるって言ったのに、お前は他の女と寝た挙句あげく別れろって言って、自分の浮気をこんな可愛い彼女になすりつけた正真正銘のクズ野郎だ」


「いやっ、ちが、それは全部その女の・・・・・・」


 女を見て時、アイツは泣いたをして、チラッと俺の方を見てきた。

 その時の表情はにやにやと、俺をにらんでいた。俺は今でもあの表情が怖い。


 俺には、1しかいなかった。俺は助けて欲しくて、クズ女と浮気した親友を頼ろうとして、親友の方を見る。


「ごめんな」


 その一言、俺に言ってきた。違う、違う、今は謝って欲しいんじゃない、になって欲しいだけなんだ・・・・・・



「だって、お前の親友の×××が言ってたんだぜ?」


 この時、俺は全てを失った気がした。彼女も、親友も、友達も、何もかも全部。


 その後の学校生活はただ、苦痛にえるだけだった––––––––––。


「・・・・・・かくん。早坂君っ」


 俺はそこで天使様に起こされる。しかし天使様の顔は俺を見て心配をしている様子だった。


 それもそうだ、最悪の夢で変な汗も、だらだら出ていた。

 そして気分も最悪。


「大丈夫ですか?」

「あぁ、ちょっとシャワー浴びてくる」


 そう言って、なにも聞かれないように、俺はお風呂場に向かった。


 シャワーを浴びて、下は持ってきたのだが、上の着替えを持ってくるのを忘れたので取りに行く時に楓に見られてしまい。


 楓が顔を赤くしながら


「な、な、なんで服を着てないんですかっ!」

「忘れたんだよ、今着るから・・・・・・」


 と言って急いで着る。今朝のことは楓はなにも聞いてこなかった。


「あの早坂君・・・・・・お、お話があります!」

「話?なんだ?」


 改まって言われるのはあまりないので、少し姿勢を良くする。よくすると言っても背筋を少し伸ばすくらいだ。


「私バイトしたいですっ!」

「あぁ、良いんじゃないか?」

「やっぱりダメで––––・・・・・え?本当に?」

「えっ?うん」

「私はてっきりダメかと・・・・・・」

「それは俺が決めることじゃなくて、楓が決めることでしょ?」


 少し驚いた、という表情をしている楓を見て、なんで断られると思ってたんだと不思議でしょうがなかった。


 そこまで束縛ふたんというか、厳しくはないつもりだけどなぁと自分でもそう思われてしまった原因を考えていたが、これといって思い浮かばなかった。


「まぁ、洗濯や食器洗い、くらいは俺もできるし、料理しろって言われたら美味くは作れないけど頑張るからさ、楓がバイトを始めたら家事を分担しよう」


 蓮も楓の負担ふたんが大きいことは前から分かっていた。タイミング的には丁度よかったのではないかと我ながら思ってしまう。


「本当ですか?じゃあお言葉に甘えて」

「それで?どこで働くんだ?」

「えっと・・・・・・それはですね」


 なぜかもじもじ、して一向に言い出さない、もしかして、いかがわしいお店か?と一瞬思ったがそんなのは、決してないことを蓮は理解していた。


「ひ、秘密です・・・・・・」

「まっ、言いたくないことくらいあるよな。まぁ、バイト頑張れよ」


 他に言いたくない理由があるのだろうかと思い、あまり詮索せんさくはしなかった。


 俺がまだ、楓に中学の時のトラウマを秘密にしているように・・・・・・


 楓は待ってくれると言ってくれたが、もう話したら少しは楽になるのだろうか、しかしそれで気を遣わせるのも・・・・・・


「はいっ!バリバリ働きますっ!」


 ニコッと笑う楓を見て、この笑顔を見たら、嫌なことも忘れられるな・・・・・・


 そう思っていた時にはもう、楓の頭に手を乗せて頭を撫でていた。


 そして小さく楓に向かって


「ありがとう」


 悲しさに溢れた「ありがとう」をボソッ呟いた。楓はいつもと違う事に気づいたのか、黙って蓮に撫でられていた。

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