第18話 天使様はいじけちゃう

「今日は何時に帰ってきますか?」

「ええっと、20時くらいかな?」

「わかりましたっ!」


 そう言うとニコニコしながらリビングに戻っていく楓の背中を玄関から不思議そうに見ていた。


 どうしてそんな事を聞いたのだろうと、疑問に思ったが、そこまで気になることでもなかったので、スルーして、バイトに向かった。


「蓮ちゃーん、もう上がって良いわよー」

「あっ、わかりました。お先に失礼します」


 先輩や店長に挨拶をしたあと、俺は時計を見る朝楓には20時に帰ると言っていたのに、時刻は21時を過ぎていた。



 蓮も流石に少し焦り、20時と言っていたのに21時に帰ることになってしまった。


 なんて言い訳しよう、なんて考えながら、玄関の扉を開ける。


「ただいま・・・・・・」


 すると、いつも「お帰りなさいっ」と言ってくれる楓の声がない。

 相当怒っているのだろうか、などと考えリビングに行くと、テーブルにはご飯が並べてあった。


 二人分だった。楓はずっと蓮のことを待ってご飯を食べていなかったのだ。


「20時に帰るって言ってたのに・・・・・・」

「ごめん、21時で時間間違えてた・・・・・・」


 クッションを抱きしめながら、ムスッとした表情を見せてくる。

 しかし、そんないじけた様子の天使様も不意に可愛いと思ってしまった。


「じゃあ食べましょうか」

「あぁ、お風呂は入ったのに、ご飯はなんで食べてなかったんだ?」


 それを聞くと、ますます楓の機嫌が悪くなる。


「だって・・・・・・一人でご飯を食べるのは悲しいんですもん」


「そ、そうか・・・・・・」


 本当に悪いことをしたなと、少し反省する。しかし楓も仕方ないことを分かっているのか、それ以上は何も言わなかった。


 ◇ ◇ ◇


「なぁ、楓・・・・・・って寝てる」


 楓の方を見ると、ソファに座りクッションを抱きながら眠っていた。

 そのスヤスヤと眠る姿だけで、絵になるほど美しかった。


(これをクラスの男共がみたら、失神しっしんする奴とか出そうだな)


 と自分で考えたことが馬鹿ばかすぎて、一人で笑ってしまう。


 しかし、それほどまでに、綺麗きれいな肌や髪の毛をしている。

 少しくらい触っても怒られないよなと楓の白いマシュマロみたいな頬をフニッと触る。


(おおっ、柔らかい・・・・・・)


 そんな事を思っていたら、握っていたクッションを膝下に置いた。

 起きたのかと思い、少しびっくりしたが、まだ眠っている様子だった。

 

 しかし、次の問題が生まれた。それはクッションで隠れていた、山二つが、結構な主張をしている事だった。


 いつもだったら、そこまで気にはしていないんだが、今回はまじまじと楓を見ているので、気にしない様にしても、目に入ってしまう。


(男としては・・・・・・触りたい)


 頬であんなに柔らかかったのだから、こっちの山はどれくらいなのだろうかと、好奇心があった。


 しかし、そんな事をしたら、後から罪悪感で押しつぶされて、楓と目が合わせられなくなることは分かっていた。


 しかし・・・・・・と頭の中で天使と悪魔が議論ぎろんする事、約5分、結果指でツンツンくらいだったらバレないのでは?という結果に至った。


 恐る恐る指を楓の胸につんと当てる。その瞬間、むにゅうぅ、と柔らかい感触かんしょくが指先に伝わる。


「んっ、」

「ひゃぇっ!」


 びっくりした・・・・・・起きたかと思った。自分でもおかしな声が出ているのはわかっていた。


(俺って・・・・・・もしかして、女嫌いじゃないのか?・・・・・・いや、それはない今でも元カノの事を思い出すと吐き気がする時がある)


 けれども、最近は元カノよりも、楓の事を考える時間の方が圧倒的に多い。

 親しくなったからこそ、悪戯いたずらをすることがある。しかし、これは悪戯というよりも犯罪に近い気がしたので、それ以降はやらない事に決めた。



(タオルケットでもかけてやるか・・・・・・)


 そう思って、楓から離れると、聞き取れなかったが、たしかに楓が何か言っていた。

 タオルケットをもって近づくと、また何か言っている。


「早坂君・・・・・・」

「ん?なんだ」


 寝言なのだろうか、声が小さくか細い。


「・・・・・・好き」


 なにか、食べ物か動物の夢でも見ているのだろうかと思っていたが、どうやら違うらしい。

 なぜなら楓は俺の名前を呼んだからだ。


「早坂君・・・・・・好き」

「・・・・・・えっ?」


 俺は寝言なのに、好きという言葉に反応してしまった。

 女の子から好きなんて言われるの元カノ以来だったからだ。


 しかし、なぜだろう恋愛感情なんて、俺も楓も持っていないと思っていたのに・・・・・・


「いやいや、この部屋に来た時も友達としてって言ってたし・・・・・・恋愛感情ではないだろ」


 自分で言って胸がチクッとなる痛みがあった。


 恋愛感情なんてないと思っていたのに・・・・・・



「不意打ちはずるいだろ・・・・・・」


 蓮は自分の顔に熱が集中するのがわかった。その後に楓の頬を「このやろ」と言いながらもう一度触り、小さな仕返しをした。

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