第17話 誕生日作戦その後

「楓・・・・・・これ」


 蓮がそう言って渡したのは、楓の為に買ってきたおじさんクッションだった。

 楓はそれを見て、体をうずうずさせていたが、それと同時に、こちらをきょとん、として見ていた。


 プレゼントが二つあることに驚いているのか、不思議に思っているのかはわからないが、やはりプレゼントを誰かにあげるのは少し小恥こはずかしい。


「えっ・・・・・・プレゼントはもう」

「これはいつもお世話になってるから」

「でも・・・・・・」

「素直にもらってくれると助かる」


 では、とおじさんクッションを蓮から受け取ると我慢できなかったのか、こちら見てくるので、どうぞ、という仕草をしたら、勢いよくクッションに顔を埋め始めた。


 その姿はまるで、新しいおもちゃを貰った子犬の様な姿でとても可愛らしかった。


 顔を埋めたあとは口元をクッションで隠している。


「すみません、はしたないところを・・・・・・」

「いや、可愛かったぞ」

「かわっ・・・・・・そういう事をすぐに言うのは良くないですっ」


「そんな言ってないだろ」

「とにかくダメです・・・・・・・・・特に私以外には・・・」


 最後の方なにか言った気がしたのだが、それを聞こうとすると、頬を赤く染め、さっきまでは子犬だったのに、今ではシャーーッ!と威嚇してくる。


 こういう時に踏み込みすぎると手を引っかれるように、天使様も口を聞いてくれなくなるので、あまり追求はしなかった。



「・・・・・・あの・・・・・・私だけこんなに貰っていいのでしょうか」


 クッションを抱き抱えて、見えるわずかな表情は、さっきとは変わって、少し暗い表情になっていた。申し訳なさそうに、眉を八の字にしている。


「いいんだよ、それに俺だっておから貰ってる」

「そうでしょうか・・・・・・」


「ご飯も、洗濯も掃除も家事はほとんどやってくれてる、それだけで十分すぎるんだ。俺の方こそ、そのクッションだけじゃ、足りないくらいだよ」


 その言葉を聞いて、楓はこのクッションにはそれ以上の価値がありますと言って、さらにぎゅぅっと抱きしめる。


「そんなに価値があるのか?一万いかなかったけど・・・・・・」

「違いますよっ、それだけでどんな物でも価値があるんです」


 その時、抱きしめていたクッションを、楓は膝に置いて、はにかみ笑いを見せてきた。


 その笑顔を、長くは見ていられなかった。蓮は自分の心臓の音が速くなるのがわかった。

 あれ以上見ていたら、顔が赤くなってしまったのが楓にバレてしまっていた。


「・・・・・・そうか、喜んでもらえてよかった」

「早坂君の誕生日に私も喜んでもらえるように頑張りますっ!」


 楽しみにしてると蓮は一言だけ楓に言ってソファに座った。


 すると楓が、何かを思いついたかの様に、こちらに近づいてくる。


「なんだ・・・・・・」

「今からでも、私が出来ることあったかもしれません」

「・・・・・・・・・そうなのか?」


 「はいっ」と言いながら近寄ってくるので、少し怖くなり、表情が硬くなってしまう。


「あの・・・・・・膝枕ひざまくらとか嫌いですか?」


 膝枕?膝枕って言ったのか今?と疑いたくなる言葉だった。

 楓を見ると、恥ずかしいのか、頬を赤らめて、耳までも真っ赤になっている。


 まったく・・・・・・天使様はと少し呆れつつ、蓮は天使様の頭にポンッと手を置く。


「じゃあ、誕生日の時まで取っておくから、誕生日に膝枕頼みたいかな」


「はいっ!わかりました」


 と恥ずかしいそうにニコッと、笑う彼女を見て、お風呂場に向かう。


 そのあと、自分の言葉に、後悔をしつつも、自分の誕生日がだったのだが、少しだけ、本当に少しだけ楽しみになった。

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