第15話 楓の誕生日

「なぁ、楓の誕生日っていつなんだ?」


 さりげなく聞いた。いつも家事をほぼ全てやってもらっているので、少しはなにか楓が喜ぶ事をしてやりたいと思ったのだ。


「私の誕生日ですか・・・・・・」


 すると、暗い表情に一瞬なる。しかしそれを蓮に気づかれないように、すぐにニコッと笑ってくる。


 その表情に気づいた蓮は、あまり誕生日について詮索することはやめようと思った。

 しかし、このから元気の笑顔よりも笑顔にしてやるという小さな目標ができた。


「11月27日です」

「そっか・・・・・覚えとく」

「早坂君の誕生日は?」

「俺の誕生日は・・・・・・1月3日」

「私も覚えときますねっ」


 俺は自分の誕生日を楓に教えるのを躊躇ためらった。というのも、自分の過去がまたーーーーいや、今は考える事をやめよう、そう思い、蓮はせっせと朝食の準備をする楓をみながら、楓の誕生日について考えた。


 授業が終わり拓人に俺は楓の誕生日の事を話す。


「なぁ、拓人11月27日、空けといてくれないか」

「えっ・・・・・・どうして?」

「楓の誕生日で、その、祝ってやりたいんだ」

「なるほど、二人で祝わなくていいのか?」

「拓人と千夏が来てくれた方が嬉しいと思うし、俺はお前達が帰った後に改めて祝おうかなと」


 了解、と拓人はニッと笑った時に白い歯が強調される。

 その時の拓人のイケメンオーラはとてつもないものだった。眩しすぎたので目を細めて拓人を見ていた。


 次に問題なのは、サプライズで行いたいので、楓にバレないように上手く誤魔化せれば完璧だ。


「あの、二人とも何喋ってるんですか?」


 私も混ぜて欲しいといった形で楓と千夏が入ってくる。

 しかし、それに気づいた周りのクラスメイトは、拓人はわかる。千夏の彼氏だから、でもなんで蓮?といった、疑問の目線を向けていた。


「いやっ、その」

「蓮とちょっとゲームの話を・・・・・・」

「なにか隠してませんか?」

「怪しいぞ〜たっくん、まさか浮気・・・・・・?」


 拓人が焦って、急いで誤解ごかいを解いてるのを見て、「お前もこっち側の人間になる筈なんだから静かにしとけっ!」と千夏に言いたかった。


 すると楓が不満そうな顔で、蓮の顔を覗いてくる。


「なにか怪しいですね・・・・・・」


 こういう時に限って二人ともかんするどい。いや、楓はいつも、妙なところで勘が鋭い時がある。


 隣を見ると、千夏に楓の誕生日のことを教えてる拓人が千夏を仲間に加え入れたようだ。


「な、なぁーんだ私の勘違いかー」

「そ、そうだよ!まったく千夏はー」

「皆さん、私に隠し事してませんか?千夏さん?」

「エッ、ソ、ソンナコトナインジャナイカナー」


 (明らかに動揺してるじゃねぇか・・・)


 千夏にどんだけ嘘つくの下手なんだよと思いながらもバレるんじゃないかとヒヤヒヤしていた。


 楓は俺の方を見て、シュンと表情が飼い主に怒られた犬みたいな感じになっていたので、罪悪感が半端なくあった。


 しかし、これも楓の誕生日の為と思い、耐えなければいけないと思った。


「しばらく誕生日のことは秘密な」

「そうだな誰かさんのせいでバレそうだったし」

「ひどーい!あれでも頑張ったんだよ!」

「そうだぞっ!千夏をいじめるなー」


 そんな感じで、千夏のミスは水に流された。別に責めようとしてるわけではないが、千夏はもう少し上手く誤魔化されるようになった方がいいと思った。


 けど、あの純粋さも千夏のいいところだ。


 拓人達と別れる前に、俺は拓人に心配された。それは俺が一緒に住んでる時にうっかり言ってしまうんじゃないかと・・・・・・


 蓮もそんなミスはしないっ・・・・・・と強くは言えなかった。


「さっきから何考えてるんですか?」

「いや、別に何も・・・・・・」

「わたしだけ除け者みたいです・・・・・・」


「そういうつもりは・・・・・・」

「ありますよっ、3人だけで話して、私は混ざれない・・・・・・」

「悪かった」


 よしよし、と楓の頭を優しく撫でる。その時に髪の触り心地は、星三つ付けれるほどに気持ち良かった。


 結構撫でていると、楓の顔が赤くなっているのにようやく気づき、慌てて手を離す。

 すると、恥ずかしかったのか、ぽすぽすと蓮の胸のあたりをパンチしてくる。

 まったく痛くないところがまた可愛い。



「撫でればいいって問題じゃないですからね」

「じゃあ嫌だったか?」

「続きは家で、してもらいます」

「あいよ、今日は随分と甘えん坊だな」

「私を除け者にした罰です」


 ツーン、と照れながらも怒っている楓を見て、家に帰る足取りが少しだけ早くなった。

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