第4話 天使様と親子丼

 必要な物をショッピングモールで買ったあとは、今日の夕飯の食材を買うためにスーパーに行くことになった。


 出前やコンビニでいいだろ?と言うとどこかムッとした表情で、「今日は私が作りますっ」と強く言われたので否定は出来なかった。


「スーパーって、何気に高校生になってからきたの初めてかも」

「本当ですかっ?よくそれで一人暮らしできていますね」


「うるせぇ、舐めんな」

「別に舐めてるわけでは・・・・・・それはそうと、今日の献立はなにがいいですか?希望があれば作りますけど」


「なんでも作れるのか?」

「作れないものもありますが、大抵のものは作れますよ」


 なにか献立と言われても、すぐに思いつくわけでもなく、結局「おまかせで」と言ってしまった。


 分かりました、と天使様はテキパキと買う物を、買い物カゴに入れて行く。


「もう献立決まってるのか?」

「要望があったらそれに答えましたけど、おまかせと言われたので」


「ちなみに今日の献立は?」

「今日は卵が安かったので、親子丼にしようかと」

「・・・・・・そっか」


「あっ、アレルギーとかってあります?」

「ないからなんでも大丈夫」


 と言って、買い物を再開する天使様は主婦の姿そのものだった。


 なんか様になってるなぁと感じた。


 調味料やいろんな物を買った結果、スーパーの袋3つ分くらいになった。


「ごめんなさいっ、こんなに買ってしまって・・・・・」


「いや、全然俺はよく分かんないし、助かる」


 家に着いたら、すぐに晩ご飯の用意にかかっていた。


「そんなに急がなくても」

「ダメですっ、私の服を買うために遅くなってしまったんですから」

「そうですか」


 せっせと、料理をする姿を横目に俺は小説を読む。結構いいところまで読んで寝てしまったのでつづきが気になっていたのだ。


 部屋のソファに寝転がり、その小説を読んであと少しで、犯人が分かるって時に、タイミング悪く、天使様が作ったご飯をテーブルまで持ってくる。


「それじゃあ食べましょうか」

「・・・・・・あっ、あぁ」

「どうしました?」


 またいいところで終わってしまったとは言えず、なんでもないと答える。


 箸を手に持ち、親子丼を食べる。


「うまっ、」


 思わず、声が出てしまった。本当に美味しくて、なぜか自然とニヤけてしまう。

 人間というのは、美味しい物を食べた時、ニヤついてしまうものなのだろうか。


 すると、天使様がこっちをきょとんと見ている。


「どうした?」

「いえっ、その、美味しそうに食べるなぁと思って」


 親子丼も美味しいが、しいたけのスープや、大根のサラダなど、実にバランスよく彩り豊かな料理が並ぶのは珍しく、それを食べるのも中学以来かもしれなくて、顔が緩んでしまったのだ。


「そりゃ美味しいからな」

「よかった・・・・・父は美味しいっては言ってくれなかったので、いつも、こんな不味い料理をよく出せるなって、怒られてました」


 その時の表情は、やはりどこか悲しさを感じさせる目をしていた。


 コイツは、からっぽなんだ、蓮は元カノとのトラウマがあった時、救ってくれたのは家族だった。家族が居たからこそ、今の俺はここにいる。


 じゃあコイツはどうだ?コイツは母が交通事故で亡くなり、父には体で商売しろと強要される日々、そんな話、ある種の都市伝説とまで思っていたのに・・・・・・



「自信持て、お前の料理は美味い」

「ありがとうございます、あの一ついいですか?」

「なんだ?」

「私にはちゃんとした名前がありますっ、その、お前とか、天使様とか呼ばれるのはちょっと・・・・・・」

「えっと、名前なんだっけ?」


 まったくもう、と呆れた表情だった。仕方ないことだ、女子の名前なんて覚える必要はないと、ずっと思っていたのだから。


「改めまして、清水楓しみずかえで15歳です」

早坂蓮はやさかれん

「よろしくお願いしますっ」


 へへっ、なんか照れますねと言って、綺麗な頬を少し赤らめている。

 それをじっと見ていると、ますます赤くなっていたのを、楓はぬいぐるみで顔を隠していた。


 そんな赤くなる、楓より、親子丼の方が気になっていた。


「食べないのか?冷めるぞ?」

「猫舌なんですっ!!」


 と言い、数分ぬいぐるみを抱きしめては、離さなかった。


 その間、親子丼は冷めていく一方だった。

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