第5話 天使様と学校

 午前7時30分にスマホでセットしといた、アラームが俺に朝が来たことを教える。しかし、すぐに枕の近くに置いてあるスマホを手に取り、まだ重たいまぶたを開き、アラームを切る。


 そして、またベッドにもぐみ、ウトウトしてきた頃、今度は体を横にさぶられる。

 また重い瞼を開けると、そこにはブロンドの髪で大きなひとみの女の子が、こちらの顔をのぞいていた。


「あっ、やっと起きましたか?そろそろご飯食べないと遅刻しちゃいますよー」

「今日学校・・・・・・?」

「なに寝ぼけてるんですか?」


 早く、顔洗ってきてくださいっ、とかえでに洗面所に行くことを促され、俺はすごい寝癖ねぐせをつけた髪の毛を、ゆらゆら揺らしながら、洗面所に向かう。


 洗面所で、ぬるい水を出し、顔にバシャバシャかけていく。

 鏡で自分の顔を見てみると、まだ寝ていたいのかまぶたがだんだんと閉じていくのが分かった。


「ちょっと!立ったまま寝てるんですかっ!?」


 その大きな声にびっくりして、体が反応して反射的に目を開く。

 

 すると楓は、くしで俺の寝癖が付いてる髪の毛をく、慣れた手つきで濡れたタオルで髪を濡らし、そのあと丁寧ていねいに櫛を使って梳いていく。


 そのあとはドライヤーをかけ終わったあと、鏡をもう一度みると、蓮の髪の毛には寝癖が付いていなかった。


「お見事」

「もうっ、余裕ないんですよ?」

「まぁ、遅刻はしないよ」


 いつも、遅刻ギリギリの勝負に勝っている蓮は遅刻だけはしないと自信があった。


「あっ、あの、本当に一緒に行かないんですか?」

「昨日も言っただろ?一緒に行くと目立つから時間をずらして登校するって」


 昨日の夜に、二人で決めた事なのだが楓は納得のいってない様子だったのが、洗面所の鏡に映る、楓の表情を見るとわかる。


 寝癖なおしも終わったので、リビングに移動する。リビングのテーブルには、当たり前かのように

朝ごはんが置いてある。

 パンにレタスやハム、チーズにらマヨネーズを、加えて、挟んであるサンドイッチだった。


「ちゃんと朝ごはん食べてくださいよっ!」

「あいよ」

「では、行ってきますっ」

「あいよ」


 ニコッとリビングのとびらの目の前で蓮に向かって微笑んだ楓は、自分のかばんを持ってスタスタと玄関まで歩いて行った。


 そのあとに、ガチャッと玄関の扉が開く音がし、再度、楓は「行ってきますっ」とリビングまで聞こえる声で言っていた。


 俺は、楓が作った、サンドイッチを片手にテレビをつけ、【今日の占い〜あなたの運勢は?】というニュース番組の、サブコーナー的なものを呑気のんきに見ていた。


(お・・・・・・やぎ座結構いい順位じゃん)


 運勢が良かったこともあり、サンドイッチを平らげたら、とりあえず今日の授業に使うものだけを、バックに詰め込み、戸締とじまりなどを確認して、玄関げんかんに鍵をかける。



 だんだんと学校に近づくにつれて、行きたくなくなってくる。またもや長い一日を過ごさなければならないのかと、勝手に落ち込む。


 そんな事を考えてるうちに学校の正門前には5分前には着いた。



 盛大にあくびをかましながら、教室の扉を開き、教室の中に入っていく。


 すると、心配だったのか、ずっと扉の方向を見ていた、楓の表情が俺が遅刻せずに入ってきた途端に安堵あんどした様子だった。


 俺と目が合うと一番前の窓際まどぎわの自分の席から微笑みながら手を振ってくる。


 気づかれてしまうかもしれないので、気づかないふりをして、自分の席の横にバックを置いて席に座る。


 すると、後ろの方から


「今俺に手振ってたぜ?!」やら「今天使が微笑んだ!」などとクラスの男子が嬉しそうに言っている。


(よしっ・・・・・・バレてはなさそうだ)


「毎回遅刻ギリギリだな蓮は」

「拓人・・・・・・これで連勝記録も更新した」

「一体何と戦ってんだよ、お前は・・・・・・」

「遅刻?」

「じゃあもっと早く来いよ・・・・・・」


 お前もう負けてるようなもんだよ、と言われたが別にどう言われようと、遅刻ギリギリの戦いをやめようとは思わなかった。


 拓人と何気なにげない会話をしていると、前の扉から、担任が出席簿しゅっせきぼを抱えながら入ってくる。


「ホームルーム始めるから席についてねー」


 その言葉にみんな一斉いっせいに席に着く。


「はいっ、10月に入って、だんだんと寒くなってきましたが10月に入ったということは、テスト1週間前になりましたー!」


 と、大きな担任の声に少し驚きながらも、完全に中間テストのことを忘れていた。




◇ ◇ ◇


 学校から帰宅するとすで玄関げんかんの鍵は開いていた。

楓がスペアキーで開けたのだろう。


 リビングに行くと、楓が机に向かってシャープペンを走らせていた。


「偉いな、勉強してるのか」

「もう1週間前ですよ?全然偉くないですよっ」

「そうでございますか・・・・・・」


 そう言って重い体が吸い込まれるようにソファに向かっていく。

 横になりながらスマホをいじっている。


「早坂君も勉強しませんか?」

「俺は別に・・・・・・」

「そういえば早坂君、この前の期末テスト中々良い点数とってましたよね?」

「学年一位に言われても嫌味いやみにしか聞こえん」


 と言うと、ごめんなさいっ、そういうつもりで言った訳では・・・・・・と謝ってくる。


「いや、謝んないで」

「まっ、俺はまだ勉強はしないから」


 と言って、ソファに寝転ねころがる俺を見て、もうっ、と苦笑いしていた。

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