第2話 天使様の独り言

 また、中学の夢を見ていた。いつまで経っても元カノの、あの自分を見下すような表情を思い出す度に吐き気がする。


 また、同じような一日だと思い、重い体をベットから起こすと、いつもとは違うことにすぐ気づく。


 リビングの方からいい匂いがするのだ。いつも料理など全くしないからこそ、すぐにわかった。


(そうだ・・・俺は天使様を拾ったんだ)


「あっ、おはようございます」

「おはよう・・・・・・なにしてんの?」

「朝ごはんを作ってるんです」

「俺の冷蔵庫に食材入ってた?」

「全くなかったです・・・・・・」


 それでも、味噌やソーセージ、卵などはあったらしい。

 それで朝ごはんを作ってくれてるらしい。


 いつもはパンにジャムを塗ればそれでよかったが今日くらいはこんなご飯もいいなと思った。


 ご飯を食べる時もほとんど無言で、俺からはなにも聞かない。

 静かに作ってくれた朝飯を口に運ぶ。


「本当に・・・・・なにも聞かないんですね」

「じゃあ聞いたら答えてくれんのか?」

「・・・・・・多少は」

「あっそ・・・・・・」


 そしてまた沈黙が続く。そのあと、食後のコーヒーを二人で飲んでいたら、天使様がコーヒーを見つめながら


「これは独り言なので、聞いても聞かなくても大丈夫です」


 独り言・・・一緒にリビングに居れば嫌でも耳に入ってくる。


「私の母はイギリス人で、私が産まれてすぐに離婚したらしいです、私はイギリスで母と二人暮らしをしていました。」


 初耳だ、イギリス人の血が混ざっているという事は天使様は、ハーフだったのか・・・・・


「そして私が5歳の時母が交通事故で亡くなりました」


 突然すぎて、すこし整理が追いつかない。天使様の両親は、彼女が産まれてすぐに離婚して、その後お母さんは交通事故で亡くなってる?


 目の前の女の子は相当辛い人生を送って来たのだろう。しかし、それは蓮には関係のない事だった。


「それで、一人になった私を今度は父が引き取りました、そこからが本当の地獄の日々でした」


 どういうことだ?父親に引き取られたのに、地獄の日々?どんどん天使様の表情がけわしくなる


「父は女遊びが激しく、私が家にいたって、女を連れ込んでは、毎晩遊んでいました」


 蓮は辛そうに答える天使様を見て、辛いんだったら話すのを辞めればいいのにと思っていた。


「そして、私の身体つきが大人に近づいた頃、父は私に知らないおじさんと関係を持つことを強要してきました」


 飲んでいたらコーヒーを吐きそうになる。ここら辺から、嫌な予感がしていた。


「父はお金が欲しかったらしく、私を強引に金持ちの男の人のところへ連れて行かされ、私の身体は、昨日好きでもない、知らないおじさんと関係を持つ様に言われましたが、逃げてきたんです・・・・・・」


 さすがに、汚されてはいないのか・・・と思ったが、お金の為に父親がそこまでするのかとコーヒーを飲みながら、思っていた。

 なんて壮絶な人生を高校生にして歩んでいるんだと同情した。


「もうやめろ、コーヒーが不味くなる」

「ごめんなさいっ・・・・・・」

「でも、親父の家があるんじゃないのか?」


 だったら帰れるだろ、と問いかけたところ、頭を横に振った。


「ありますが、もし私が逃げてきたことを知ったらなにをされるか・・・・・・」

「・・・・・・相当なクズだな」


 リビングに最悪な空気が漂う。だが、場を和まそうとは、全く思わなかった。

 彼女から話して来たことだし、独り言とも言っていた。


「あっ・・・これ以上は迷惑かけることできないのでそろそろ帰りますね・・・・・・」

「帰るってどこに」


 帰る場所が無いことくらい、分かってるはずだったのに、聞いてしまった。

 

「昨日も言った通り、ありませんよ」


 それを聞いて、はぁっ、ため息を吐く。別に好きとかそういう感情は全く無いがこんなに彼女の事情を知った上で、なにもしないというのも、あと味が悪い。


「じゃあ、ここに住むか?」

「・・・・・・えっ?」

「決してやましい事はない、ただ、条件がある」

「条件ですか?」


 天使様は大きな瞳をぱちぱちと瞬きを繰り返して首を傾げてこちらをみる。


「あぁ、家事全般は担当してもらう、それだけ」

「・・・・・・それだけですか?」

「不満なんだったらこの話は忘れてくれ」

「不満なんてっ!そんなあるわけないです」


(なにやってんだ俺・・・・・・女が大嫌いじゃなかったのか・・・・・・コイツも女だぞ・・・)



「はぁ・・・・・・じゃあ決まりだな・・・・・・荷物はまだ、前の家にあるんじゃないか?」

「いえっ、勉強道具は学校に置いてありますし、私が使える家具なんてありませんでした」

「服は?」

「制服と、下着が少し」


 本当に、コイツは・・・・・・



「じゃあ今から買いに行くぞ」

「私っ、お金なんて持ってないです」

「俺が出すから」

「そんなっ!悪いですよ」

「いいから、制服姿で家に出入りされたりしたら、クラスの奴らにバレるかもしれないだろ」


 彼女は申し訳なさそうに、眉を下げる。別に俺が勝手にしていることなので、気にしないで欲しかった。


「じゃあ着替えてきて、制服じゃバレるかもしれないから、俺の服なんでも使っていいから」

「分かりました・・・・・・」


 そう言って、少し待つと、俺のパーカーが大きくて、袖から手が出てない天使様が出てきた。


「これ大きいので、危ないです」

「うるせえ、文句言ってんだったら置いてくぞ」

「あっ、ちょっと・・・・・待ってくださいよー」



 彼女はブカブカのパーカーの袖を揺らしながら、ついてくる。そんな彼女を見ながら二人でショッピングモールに向かう。

 

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