第7.5話 ジャグジー

「維花さん」


なに?と隣から甘い声が届く。見た目は男っぽくても、声はやはり女性のものだ。だがその声は自分を包んでくれる人のそれであると立夏にはもう擦り込まれている。


「ちょっとシャワー浴びてきていいですか?」


情交の跡を消したくない思いはあったが、さすがに夢中で貪り合いすぎで少しリセットしたい思いが立夏にはあった。


「一緒にシャワー浴びようか?」


「あのシャワーブース狭いから流石に無理じゃないですか?」


「……うーん、じゃあジャグジーの方行く?」


「でも水着着用って言ってませんでした? 昼間」


「こんな真夜中に誰も外にいないよ」


もう3時を回っているのだ。


立夏も入ってみたいという欲求が勝って、せめてとTシャツだけを着て二人で手を繋いでジャグジーに向かう。


「あ……」


ジャグジーに入った所で立夏が声を上げる。


「どうしたの?」


「ジャグジーにTシャツって意味なかった」


ようやく気づいたのかとくすくすと維花は小さく笑う。


水に濡れてしまえば服は体に張り付くだけだ。


「大丈夫、大丈夫。こんな時間に誰もいないから」


ね? と背後から立夏に抱きついた存在は立夏のTシャツの下に手を滑らせ、布を押しあげて行く。


「維花さんエロすぎません?」


「もう三十六だし、エロ親父でいいの」


「開き直らないでください」


「だってわたしの立夏ちゃんだし」


「ですけど……」


「今日はわたしの誕生日だし、いっぱい立夏ちゃんに触れたいな」


「……いいですけど、維花さんにも触らせてください……」


薄闇の中でも立夏が照れていることなど見なくても維花には知れてしまうだろう。


維花は体を立夏の正面に回し向かい合う体勢になると、立夏の額に自らのそれをくっつけた。


「いいよ。立夏ちゃんが触りたいように触って。我慢しなくていいからね。嫌なら嫌って言っていいし、もっとならもっとって素直に言ってくれる方がわたしもいいから」


「……いっぱい維花さんに触りたいです」


「じゃあ同じ思いってことで続けようか」


Tシャツを結局維花に脱がされ、維花も着ていたシャツを脱ぎ裸になる。ベッドで何度も求め合ったのに、それでも欲しいと思う心がある限り止まることはなかった。

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