第7話 幸せな時間
愛し合って、愛し合って、気がつけば夜更けで少しだけ眠りに落ちていた立夏は身を起こす。
幸せな幸せな時間。そうなることを望んではいたけれど、実際にそうなると、思っていた以上の充足が立夏の胸にあった。
「立夏ちゃん?」
隣の全裸の存在がうっすらと目を開け、立夏を呼ぶ。
「すみません、起こしてしまいました? 寝ててください」
だが言葉に反して維花は体を起こし、立夏を両腕で自らに引き寄せる。
「いっぱいしたのに」
「これはただ甘えてるだけだから。ありがとう立夏ちゃん」
「私も望んでいたことだから、その言葉はいらないですよ。ちゃんとできるかなって不安なところもありましたけど、維花さんが導いてくれたので」
「心臓止まるかもってくらいにどきどきしてたよ」
「全然そんな風に見えませんでしたよ。でも、今までよりももっと近くに維花さんを感じてます」
「にやにやが止まらないなぁ。立夏ちゃん可愛すぎ」
素肌のまま全身を重ね合わせ、そのまま触れるだけのキスをし合う。再び熱を持つのではなく、余韻を愉しむように緩く体を抱き肌の間隔を愉しむ。
「立夏ちゃん。今日ね、実はわたしの誕生日なんだ」
そう言えば聞いていなかったことに立夏は今更ながらに気づく。立夏の誕生日を維花は初めから知っていた。
だからこそなのか、単に立夏が抜けていただけなのかもしれないが、言ってくれれば良かったのにという思いがまず湧く。
「立夏ちゃんが知らないことは知っていたから、敢えて言わなかったの」
「何故ですか?」
「欲しいものがあったから。でも、それをわたしの誕生日だからという理由でつき合わせたくなかったんだ」
「それって……」
流石に鈍い立夏でも維花が欲しかったものに思い当たる。この旅はそういう目的で維花は誘ったのだろうとも思っていたが、維花の誕生日だったという二重の意味があったことまでは想像ができていなかった。
「立夏ちゃんをどうやって誘おうか最近ずっと考えて、仕事どころじゃなかったくらい」
「維花さんでもそういうところあるんですね」
「だって、立夏ちゃんがわたしとつき合ってくれて、一杯一杯したいことが増えたんだもん」
立夏のことになると途端に可愛くなる人を、立夏が独占できるのは最大の幸せだろう。
「それは私もです。維花さんと一緒にいろんなこといっぱいしたいです」
「こういうこともいっぱいしていい?」
「今日は維花さんの誕生日なら、したいだけつきあいます。というか私も維花さんといっぱいしたいです」
「今日は朝まで寝かせられないかもよ?」
「いいですよ。維花さん、誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。今日が人生で最高の誕生日になったよ」
笑顔の存在に立夏からキスを贈る。それに応じるかのように維花からの応答が返される。
飽きることなく体を触れ合わせ一つに溶け合う行為は、知ってしまえば離せないものだった。
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