第4話 到着

今日の目的地は海に面したビーチで、そこに小さなコテージが十数棟並んでいる。海に合わせるように白をベースにした外壁にカラフルなアクセントカラーが施されていて、前以て写真は見ていたものの立夏の期待も高まる。


一番大きな建物に入りチェックインを済ませると、そのうちの一棟の前に車を移動させ、手提げの荷物だけを持って二人はコテージに入った。


玄関扉を開いてすぐ左手にはシングルのベッドが四つ並んでいて、右手には1Rの部屋にありそうな簡易なキッチンと、奥の扉は水回りだろうと簡単に想像がついた。


そして、


「すごい、全面海ですね」


玄関の反対側は全面ガラス張りで、外にバーベキュースペースっぽいものがあり、その先に見えるのは海しかなかった。


「ここの海、夕暮れがすごく綺麗なんだって」


まだ15時を回ったところで、その光景を楽しむまでにはもうしばらくは時間が必要だが、今からもそれが楽しみで仕方がなかった。


「維花さんって海あまり好きじゃないのかと思ってました。キャンプでも山ばかりだったので」


「嫌いじゃないよ。あまり行かないのは単純な理由」


それに立夏が首を傾げると、潮がつくと後片付けが大変だからと答えが返ってくる。


「でも立夏ちゃんが嫌じゃないなら、プランに組み込んでもいいかな」


「たまにはいいんじゃないかなって思います。それに、私も後片付けは手伝います」


今年に入ってはじめた維花とのキャンプだが、立夏はもうそれにすっかり慣れていた。苦手なものはあるが、維花と何でも二人でやるのは楽しかったし、何もない時間をただ手を繋いで過ごすのも安心ができた。


「それは大変そうだったらお願いするわ」


家には招待してくれない恋人はそう言うが、本心からの言葉か誤魔化しかは立夏には判断がつかない。そこはまだ0(off)でもない1(on)でもない状態だった。


「あれってジャグジー?」


テラスデッキの片隅に白くて丸いものがあり、近づくと確かにジャグジーだった。テレビでは見たことがあるものの立夏が実物を見るのは初めてだった。


「でもここって、まわりから見えますよね?」


横は外壁があるため心配ないが、前は海に向かうビーチに続いている。宿泊者専用のエリアだとは聞いていたが、隣のコテージの人がビーチに出れば見えてしまうだろう。


「水着着用らしいよ。海には入っても入らなくてもいいと思ってるけど、それでもいるかもしれないから水着持参って連絡したの」


海に入るくらいしか考えていなかったが、維花の頭にはジャグジーのことも頭にあったということだった。


「維花さんも水着持ってきました?」


「一応持ってはきてるけど、水着着て海に入るって年じゃないよ、わたし」


「海に年齢制限なんてないと思いますけど」


「なくてもわたしにはあるの。焼けたらもう元に戻らない年なんだから」


維花の言い分に立夏は小さく笑う。維花の肌は真っ白ではないものの、キャンプにあれだけ行っている割りには綺麗に保たれている。

最低限のケアはしていると聞いていたが、気にはしているのだろう。


「じゃあ後でちょっとだけ足を浸けに一緒に行くならいいですか?」


「それならOK。でも立夏ちゃんが入りたいのなら入っていいからね」


「一人で海入るって寂しいだけです」


「ほんとだ」


顔を見合わせて笑うものの、恋人に自分だけ水着姿を晒せるかといえば絶対に無理だと立夏は心中で思っていた。

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