第3話 出発
もうすぐ着きそうというslackへのメンションに立夏は家を出る。
人目につくことは車外では控えるという条件を出した上で、最近では立夏の家の近くまで送り迎えをしてもらうようになり、いつも使っている待ち合わせ場所に徒歩で向かう。
キャンプデートはパンツが必須だが、今日はそこまでは必要ないだろうという判断で、長めのスカートにカットソーを合わせている。
なんとなく維花は立夏が可愛く着飾っても気づかないタイプだと思っていたが、合流して開口一番の声が今日の立夏ちゃんの服可愛いねだった。
思いがけず1(on)が出たと立夏は頬を染めながらも、維花の服装も前回のデートで選んだ服だった。キャンプに行く時は汚れるからと選択できない白だが、維花はやはり白が似合うと惚れ直してしまう。
「維花さんだって格好いいです」
と言っていたら、可愛いと早速立夏は唇を奪われる。触れるだけの優しいキスにそれでも立夏は赤面してしまう。
維花に男性っぽさを求めているわけではないが、維花の整った顔立ちは女性らしい格好をしている時も、男性らしい格好をしている時も、やはり好みは好みなのだ。
「立夏ちゃんが気に入ってくれたなら良かった。立夏ちゃんとのデートの時くらいは、立夏ちゃんが甘えてくれるような格好したいから」
「維花さん、それ下心見え見えです」
とはいえ、維花が男性的なファッションをしてくれていることと、明るく振る舞ってくれていることで、極力意識を薄めてくれていることは立夏もわかっていた。
「だって会社では流石にこういうことできないでしょう?」
会社での維花とプライベートな維花の違いに慣れられるか不安だったものの、会社では今まで通り先輩後輩として接してくれて、恋人として接しられないストレスを平日はslackで埋めて、休日には開放するスタイルが自然と身についていた。
それに、会社パソコンのslackにも二人だけのプライベートチャネルを恐らく維花も追加している。
そうとしか思えないタイミングで返事が返ってくることがよくあるのだ。自分もするかもしれないなと思った運用を同業者である維花もしていて、いつでも繋がっている感はあった。
「最近私もやっぱり運転免許があった方がいいかなって思ってるんです」
その言葉に維花は運転をしながらも左手を顎に置くスタイルで考え込む。
「立夏ちゃんの気持ちは嬉しいんだけど……」
言葉を濁す理由が分からなくて首を傾げる。
「この車って、普通の自動車免許で走れる大きさの中じゃかなり大きな方なんだ。だから免許取ってもなかなか慣れるのが大変だなって思って」
確かに維花の車はキャンプ道具を運ぶために買ったというだけあって業者か思うような大きさのもので、立夏は自分が運転する姿を全く想像できなかった。
「わたしは好きで運転してるから気にしなくていいよ。しんどかったら休憩するし、もし何かしたいと思ってくれているなら別のケアの方がいいかな」
「別のケア?」
思い当たるものがなく鸚鵡返しに維花に尋ねる。
「無理しない範囲でいいけど、長距離を走ってる時は時々話し掛けてくれると助かる。単調な運転が続くとどうしても眠くなるから」
そう言いながら維花の運転する車はETCゲートを通って高速道路に入る。早速立夏の出番が来るということだ。
「わかりました」
キャンプをして疲れているはずなのに維花は帰り道の運転も平然とこなしタフだなと思っていたが、立夏のために頑張ってくれていたということだろう。
維花の小さなお願いにできるだけ気を配ろうと意識をすることに決めた。
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