名前 2

猫さんをギュッと抱きしめていると、狼さんに服の裾を噛まれて、そのまま引っ張られた。


「ちょ、ま、おおかみさん!」


『早くして。待ちきれないよ』


「それでも、ひっぱらないで!びっくりするでしょ!」


『う・・・でも、でも・・・』


狼さんの尻尾と耳が一気に垂れ下がって、かわいそうになってくる。


「・・・こんどは、こえ、かけてね」


『!!わかった!きをつけるよ!』


耳がぴょこっと跳ねて、しっぽがぶんぶんなってて、すごく可愛い。思わず撫でてしまう。


「いいこ。いいこ」


『もっと撫でてもいいよ』


きゅ〜ん、と可愛らしい音を出すから、頬が緩んでしまう。そして、もっと撫でてあげる。


狼さんは、耳の後ろが好きらしい。顔を傾けて、もっともっと、とすり寄ってくる。本当にかわいい。


顔がだらしなくなっている気がする。


「ふへへ」


『その光景はとても可愛らしくて癒やされるものだが、早く名付けを行ってくれ』


鳥さんに注意されてしまった。狼さんがシャキッとなって座り直す。でも、しっぽが勢いよく振られていて、かっこいい感じが台無しだ。


狼、ウルフ、・・・よし、ルフラ。


「狼さんは、ルフラ」


『ルフラ!嬉しい』


すると、またルフラの体が光って、その光は、額のところに集まった。


『これで俺も一人前に一歩近づけたような気がする!』


「はんにんまえなの?」


『う〜ん。どうなんだろう。俺の師匠はノウルだし』


「ししょうなの!?」


振り返って、ノウルの方を確認したけど、いなかった。慌てて、あたりを見回すと、今さっきまで、ラグワが居座っていたところに鳥さんがいる。二人共、何処に行ったんだろう。


『あ、二人は狩りにでかけたよ』


「なら・・・いいのかな・・・?」


一言ぐらい話しかけてから、行ってほしい。


ていうか、師弟関係だとは思わなかった。だからなのかな。ルフラは皆に顔が上がらない的なところがあるのは。


『次は私だな』


鳥さんが前に出てくる。そして、ルフラは一瞬で俺の前から消えた。砂埃を残して。


『ルフラも狩りに行っただけだ。心配しなくていい』


鳥さんの低く、はっきりした声が僕を安心させてくれる。


鳥さんの名前は考え込まなかった。


「レドラ」


『ほう、そうか。やはりちづきは面白い』


なぜかわからないけど、レドラが、にやっと笑ったような気がした。レドラは身動き一つしていないのに。顔にだって変化がない。なんだろう・・・雰囲気がそう言っているような気がする。


レドラが光り始めた。そして、左の翼に光が集まる。


『これで、契約完了だ』


そう言ったあとに、レドラが甲高い鳴き声を上げた。


耳がキーンとする。耳鳴りが止まるまで、ぎゅっと、耳を押さえておく。


『すまない。耳をふさげと言ったほうが良かったな』


「ううん、べつにいいよ。でも、こんどからはいって・・・すごいみみいたい」


『すまない』


レドラが謝った瞬間にノウル、ラグワ、ルフラが、行儀よくレドラの後ろに横一列で並んだ。


いきなり現れるから心臓に悪い。でも、皆狩りに行ったはずなのに、誰も何も持ってきてなかった。


『終わったか。早く移動するぞ』


ノウルが先に歩いていってしまう。慌てて追いかけて、走ろうとしたら、思いっきりこけた。


ズシャっていう音と一緒に膝が熱くなってジンジンと痛み始める。


子供というものは、こういうとき、泣くようにできているらしい。自分の意志に関係なく、涙が出てきた。


「う”・・・ふっ、ぅ・・・う”う”っ」


『な、泣かないでください』


『どうすればいいのか、俺知らないよ・・・』


『ほら、ノウル、謝れ』


『な!我は関係ないだろう!』


『原因になったのはノウルだ』


ノウルとレドラが言い合いをしている。やめてほしいから、仲裁に入りたいのに、嗚咽しか漏れてこない。


「うっ・・・ひくっ・・・う”〜・・・」


『ああ・・・泣かないでください』


『泣かないで、泣かないで、可愛い顔が台無しだよ』


ラグワのしっぽに頬を拭かれ、ルフラにペロッと唇と鼻先を舐められた。


驚きで泣き声が止まってしまう。ルフラ、今何した?


『泣き止んだ。良かったあ』


ルフラが安心したようにグルルと低い音を喉奥で出した。


ありがとう、という意味も含めて顎下を撫でてあげる。


ルフラの顔の後ろの方でときどきしっぽが映り込む。ルフラも今までにないぐらいにとろけた顔をしていて、かわいい。けれど、皆に見られていると気づいて、ハッとしながら真剣な顔になった。


これは可愛すぎる。


「ぶっ。あはははっ!」


僕が笑うと、皆の空気が緩んだのが分かった。


『ルフラ、いい方法を見つけましたね』


『本当!?嬉しいよ』


ラグワに褒められて、ルフラのしっぽの振りが激しくなった。


「ありがとう、ルフラ」


『どういたしまして!』


ぐっぐっとルフラに擦りつかれるけれど、四歳の体だ。押されると、すぐに後ろにこけてしまった。


『ご、ごめんね』


「あははっあはははっ」


こういう感覚が本当に新鮮で楽しくてしょうがない。


『楽しむのは少しあとにして、怪我の手当だな・・・。申し訳ないが、我らに回復系の魔法が使えるものはいない。応急処置として、草木魔法で回復効果のある植物の液を垂らす。痛いかもしれないが、我慢してくれるか?』


レドラに言われて、こくんとうなずく。


『少しだけ、耐えてくれよ』


と、ノウルが手を僕の足の上に置くと、ぶわっと、周りに植物が生え始めた。すごい綺麗・・・。


見たことない花しかなくて、少し混乱したけど、それよりもとても綺麗で、引き寄せられて行くような気がした。


そして、一つの植物が僕の両足を伝って登ってくる。その植物は膝につくと、蕾を付けて、花になって、なにかの液体を傷口に垂らした。


「いったい!!!」


ありえないほどの痛みが膝に来た。いやいやいや、こんなに痛いって聞いてないよ!


『これで終わりだ。傷口を見てみろ』


ふう、と息を吐きながらノウルは言った。魔法を使うのって、それなりに体力を消費するのかな・・・?


傷口を見ると、もう塞がり始めていて、ぎゅぎゅっと、僕の皮膚が作られていく。なんというか・・・グロい。


もう、この景色は見たくない。だから、気をつけて歩いて行こう・・・。


『さあ、行くか』


『ちづき、今日は私の背中に乗ってください』


『あ、明日は俺ね!』


『まずは東の方から見ていくか』


レドラとノウルは行き先について、話している。


その間に僕はラグワの背中に乗った。


ラグワの背中の上は振動が多いけれど、猫の背中みたいにぐわっと盛り上がる肩甲骨?を見るのが大好きだ。しかも、契約のマークも背中にあるから、二重に嬉しくて。ラグワと一緒にいるときの定位置はここになりそうだと思った。


すると、ルフラがラグワの背中に頭を乗せて、撫でてと言った。


そこまでしても、撫でてほしいのか、と少し苦笑しながらも、撫でてあげる。


『な!私も撫でてもらいたいんです!ルフラ、どいてください!』


『ふへへ、俺だけの特等席』


『私の背中に頭を置いていいとは言っていません!』


ラグワは相当悔しいらしく、ずっと抗議の声を上げている。が、身をひねると、僕が落ちてしまう可能性があるので、じっとしたままで声だけ上げている状態だ。


なんだかシュールなシーンになってしまっていて、すごく笑える。


『・・・なにしてるんだお前らは・・・』


『随分と・・・なんとういか・・・』


『『かわいらしいな』』


ノウルとレドラは口を揃えて言った。


『そんな馬鹿なこと言ってないで、早くこの駄犬を退けさせてください!』


『駄犬ってひどい!』


『私の癒やしの時間を奪っていて、何生意気言ってるんですか』


ラグワの威圧に耐えきれず、ルフラはしゅんとしていた。かわいい。こういうところだけ見たら、この中で精神年齢一番若いのはルフラなんじゃないか?


「ラグワ、いいすぎ。ルフラ、あとでちゃんとしてあげるよ」


したったらずな、文字表記がすべてひらがなになってしまいそうな口調で起こる僕も僕ですごいのか・・・?


『はあ・・・。さあ、いくぞ』


「おー!!」


ノウルがゆったりと歩いていく。ラグワもルフラも切り替えて、ついていく。


レドラは飛び上がって、一人、僕らの上を旋回している。やっぱり、歩くのがおそすぎるみたいで、遅いとでも言いたげな目で時々こちらを見てくる。


仕方ない。初日にあれだけ落とされて、かすり傷を作りまくったら、誰でも嫌になる。


ごめんね、と頭の中で誤っておく。酔うのはもう嫌だからさ。





ーーーーーーーーーー

作者から


本当にごめんなさい!


わかりにくかったら、いけないので、補足します

今回は、順番関係なく喋らせているところがあるので、すいません。


白狐さん=ノウル


黒猫さん=ラグワ


狼さん=ルフラ


鳥さん=レドラ


こう見ると、ら行しか無い・・・・。呼びにくかったらすみません。

千月くんはら行が好きみたいですね(汗

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