お題:心中しようとしたけど片方だけ出来なかった百合

あぷちろ

岩礁にて


 ざざん、ざざん、と波打つ。

 白波が岩壁へ押し寄せる。

 さっきまで明るく足元を照らしていた三日月は薄雲に隠れ、時折白波立つ海面が反射し、彼我の距離を唄う。

 ひょうひょうと風吹く暗闇に爪先をかければ先に沈んだ愛しい彼女とおなじになれるだろう。

 ざざん、ざざん、と後悔が残響する。

 私は、碌でもない私は、碌でもない世界と決別すると、彼女と契ったのだ。私と彼女のかたちは世界に否定された。否定されて、私たちは私たちしかいない場所へ逃げ込むのだ。

 震える指先を三日月に差し出す。彼女の悲痛で安堵した貌が脳裏に焼き付いている。

 彼女がいたからここまで来れたのだ。もう彼女は居ない。もう私を導いてくれる人はいない。

 独りでは何もできない私は、もう永遠に彼女に逢うことはないのだろう。

 私に出来る事といえば、指先に残ったぬくもりを抱き、赦しを請う事。

 ざざん、ざざん。涙の音がかき消えた。




おわり

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お題:心中しようとしたけど片方だけ出来なかった百合 あぷちろ @aputiro

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