第一話 welcome to いんふぇるの!
みんなは仙台平野の地図を見たことはあるかな!?
……ない?あ、そう。
仙台平野はね!とっても広いんだ!なんて言っても東北最大級の広さを誇るからね!
今はススキだらけだけど昔はいっぱい田んぼが広がってとても綺麗だったそうだよ。
北に北上川っていう長い川が流れていてね。
その支流の江合川、迫川が合流して、血管のように平野に流れていたんだ!
……まぁ、僕は見たことないんだけどね(笑)
で、この北上川が辿り着く先が
そんでもって仙台平野の中央にあるのが
で、ここから新幹線橋に沿って南に下れば……
「我らの~姫様の~青葉城に~ご案内~~!!」
……
………
……………すみません、最後まで言わせて下さい(涙)
つ、つまり!ここ
その内の一つしかお目にかかれてないなんて、人生の半分、いや、三分の一を損していると言っても過言じゃない!!でしょ!!!?
「くだらないわね」「いや過言だろ」「てかそれをいうなら三分の二じゃない」
…………
「全部聞いて損したわ」「中身が鯵の刺身ぐらい薄い」「コイツホント馬鹿よね」
「……そこまで言わなくても……(血涙)」
「そ、そうだよツバルちゃん。シー君が可哀想だよぅ。」
有害生物駆除部隊養成学校、青葉訓練棟の一角。
座学の授業を終えて皆ホームルームに帰ろうかと支度している最中。
シーミアが突然どこから持ってきた分からない地図を取り出して俺に見せてきた。
俺の発見を聞いてくれと言わんばかりの表情に押され、渋々付き合ってやった。
だが、奇しくも席の近い斑鳩ツバルと伊達アマネを巻き込む事に成功し、シーミアのテンションは最高潮を迎え、いつの間にか身振り手振りオーバーリアクションを駆使した一大講演を披露していた。
結果、無事酷評の嵐に見舞われた。
「話の構成も下手ね。川を上げるならもう二つ、成瀬川と名取川を忘れてるじゃない。特に名取川は、防塞の要として青葉基地に取り込まれ、河川敷に沿って居住区と防衛区を分けた分水嶺として取り上げる必要があったんじゃなくて?私情を挟んだ所為で端折りまくりよ。最後には論拠を放りなげて聞き手の共感を誘おうだなんて、浅ましい魂胆が見え見えだわ。はい、駄作~^^。」
…最後には俺もシーミアに同情していた。
シーミア、強く生きろよ!!
「いや、途中から斑鳩さんの眼つきが鋭くなってきたから……怖くなって………僕が言いたいのはさぁ――」
「二言だなんてみっともないわよ。あ、あとこの地図没収ね。もったいないもの。
……じゃあ行こっか♪アマネちゃん!」
伊達アマネは俺たちを申し訳なさそうに見ると、「バイバイ、レオ君」と言って小さく手を振ってツバルと共に帰っていった。
かわいい……。
「あぁ……僕がやっとの思いで盗んできた地図が……くそぉ斑鳩の奴ぅ。人の心とかないんか!?」
「お前は一回怒られろ」
〈2066年 秋〉
夏の残暑も消え、仙台市には乾いた納涼の風が吹いていた。
ともあれ、人口の八割を失った国には、この木枯らしの風は町の寂れた空気を一層寒々としたに違いない。
だから、生き残った人々は身を寄せ合い暖を温め、打ち破れた古郷を捨てて都市に集まった。
それが今の仙台連合本山、仙台市である。
旧東北大学跡(現青葉訓練棟)を後にし、現行で唯一の交通機関である仙台地下鉄を使って八木山方面に出る。この旧東北大学跡はこの八木山を南に背にする形で立っており、青葉山に連なる形で街を見下ろしている。無論、青葉山にはあの伊達アマネの住む青葉城が立っているため、この付近にいる連中はみな高貴な生まれ、貴族たちが居を構えていた。八木山の背面に出ると、なだらかな山の斜面に沿ってマンション群が並び立っている。ここが所謂居住区で、南限を名取川とし、坂を下るのに比例して人々の階級が決まってくる。仙台市の成人は18とされるが、その後4年の軍役を課された後、職業適正を見出された大人たちがこのマンションに住むことができる。
俺たち子供はというと、6歳を迎えた時点で親元を離れて南限の名取川に近い寄宿舎に集められた。この学び舎で初等、中等教育を経た後、全員が有害生物駆除部隊養成学校に進学されられる。(ここまでで優秀な成績を修めた者のみが、青葉訓練棟に行くことができる)俺たちはこうして化けものを倒す術を身に着けて、軍役を経て、生き残ってようやくあの光輝く居城に住むことができるのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『有害生物とは何か。それは45年前に発生した違法ドラック「エビルドリーム」によって発生した異形の人型生物である。元は人間であるが、その生命活動はエビルドリームを摂取するか、もしくは人肉を喰らうことでしか維持することはできない。
その爆発的発生力により、日本は一年足らずで崩壊した。
それほどまで凶悪な薬物だった。』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
星の涙が零れ落ちそうな、そんな夜だった。
地下鉄を出れば、労働を終えた大人たちの群れでホームがごった返し、人込みに押されながら、軍服、薄手のコート、渡来製のジャケット、肩を露出したチェニック、様々な人を見送りながら駅を出た。コロンのキザッたらしい匂いが鼻につく。
(これから国分町にでもいくのか…?)
国分町は東北最大の風俗街である。
大人たちは夜な夜なああやって着飾りながら、レオが乗ってきた地下鉄を使って仙台駅に遊びに行く。
仙台駅は仙台市最大の防衛拠点であるが、その下町は酒場や外国の渡来品で賑わう繁華街として機能していた。
兵役を経て正規軍として駆除部隊に配属された軍兵も、仙台駅付近に集住している。
ちなみに、子供は仙台駅に行くことができない。
あそこは大人になって役目を立派に果たしているものだけが行ける楽園なのである。
緋色に輝くマンションを遠方に、ガス灯の灯った坂道を下りながら帰路につく。
人影も次第に薄く、放棄された家屋にはどこかの悪ガキ共が集まっては大騒ぎをしていた。
この辺まで下ると、幼稚さと残酷さが残る子供の世界に変わっていく。
落書きやゴミの散乱、理性なく放たれた排泄物に群がるハエどもなど日常風景だ。
先人は町を放棄し、大人たちは子供を放棄した。
勤めを終えれば、みなあの光輝く世界に帰っていく。
俺は早く大人になりたかった。この世界が理不尽に満ちているという怒りよりも、「大人になれば」という事実が俺の足を前に進ませた。
家路には安全なルートを使う。十年もここに住んでれば、自ずとどこがガキ共の縄張りなのか体が覚えてくる。
でも、こんな場所に居着く理由は本来なら無かったはずなのだ。
なぜなら養成学校に進学した者なら、ここを離れて訓練棟に下宿することも可能だからである。
だが、レオはそうしなかった。その理由は……――
「あら、レオ君。おかえりなさい。丁度お夕飯ができたから、早く上がって着替えてきなさいな。」
寄宿舎に着くと、俺を明るく出迎えてくれた人がいた。
肩口まで伸びた艶のある黒髪をサイドに流し、柔和な表情で微笑んでくれる。
その若さに似つかわない割烹着姿の女性。
牛島レイラさん。俺たちの保母を務める女性。
俺の初恋の人だった。
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