第六話
二人が連行されて暫くすると、厳かな雰囲気の戸が見えた。その上のプレートには「第二治安維持委員会室」と筆記体が直接彫られている。
「……入れ」
美奈に促され、おずおずと室内に入った彼らを四人の男女が囲み、四つの双眸で睨んでいる。
「君らさぁ……」
その内の一人のラミア系の男が近寄り、ねっとりとした口調で話しかける。顔には穏やかな笑みが浮かんでいるが目は侮蔑に似た感情を孕んでいる。
「特に君はすごい”勇気”だよねぇ……確か……『夕焼
「……だけど、」
反論のために口を開こうとした夕焼に、男が顔をずい、と近づけ、こう言った。
「黙れッ!誰が喋っていいつった!?クソゴミがッ!口を挟むなッ!中学でもそんなんだったのか!?思い上がるなよ●●カスがッ!」
その脅すような口調に怯んだのか、夕焼はその口を再び閉ざした。男は、そんな姿を見てさも不快そうに眉をいっそう
昇はその様子を見て、あれ、と思った。夕焼の体が微妙に震えていたのだ。先程までの横暴な態度と違って、まるで虐待を受けた子供の様に見え、そんな彼の姿を昇は少し不審に思った。
「よしてくれませんこと、ジャラーダ様。不必要に圧を掛けるのは感心できなくってよ?」
「ッチ!だけどサ、
睦ヶ吾と呼ばれた、金髪ツインテドリル髪の少女が窘めるように言う。彼女の目は同じく笑っていないものの、ジャラーダよりは優しさを感じることができた。
「そ……そうですよ、む、睦ヶ吾さんの言う通りです。まずは状況を詳しく聞かないと」
「はぁ~?
「……違いますけど……でも……不必要な脅しは、良くないと思います……」
あどけなさが見える少年は、おどおどとしながらも、ハッキリとジャラーダに物申した。
「……まぁ、そうですね。ジャラーダ君!きみちょっと言いすぎだ。きみの立場は、あくまでも治安維持員の一人。生徒であるきみに、彼らを断罪する権限は与えていないはずですよ」
今まで置物のように、口を閉ざしていた男がそう言った。眼鏡を掛けた男性は初老に差し掛かっているのだろうか。
彼は他の教員のようなスーツではなく、戦闘着を着用しており、それが同室の生徒たちより彼が上の存在であることを示していた。
「……さーせん、源武先生。熱くなりすぎました。ちょっと頭冷やしてきますわ」
ジャラーダは言葉では従いつつも、納得のいかない様子でドアをぴしゃりと開けて部屋を退出した。
「すみませんね、夕焼君。彼ちょっと正義感が暴走しやすいんです。後でキツく言っておきますよ」
源武はにこやかに微笑みながら、夕焼に謝罪する。
「は……はぁ……(ちょっと……?)」
「ところで本題ですが」
その一言で、空気が少し張り詰める。
「あなた方は立会人無しに手合わせをした。これは間違いないですね?」
「はい、間違いありません」
先に口を開いたのは夕焼であった。その目は真っすぐ、目前の老教師を捉えている。
「理由を……お聞きしても、よろしいかな?」
「俺……私が、先に手合わせを仕掛けました。それは間違いありません」
「ほう」
朝日は弁明を行う彼を見て、おや、と思った。
(手が震えている……?そんなに緊張しているのか)
「……つまり夕焼くん。君は……朝日くんの様子を見て『血が騒いだから』手合わせを仕掛けた」
帳簿にインクが刻まれる音のみが、およそ五秒ほど、その場を支配していた。
「そうですか。……では、朝日くん。君から何か弁明は?」
「僕は……」
言いかけて、朝日は口をつぐみ思案顔になった。その彼を、不審げに夕焼がちらと見る。
「いえ、特には。僕の非は、夕焼さんの誘いを断らなかったことです」
「……そうですか。分かりました」
再び、カリカリとペンが走る。そして、それが止むと、源武は軽くため息をつき、書類の束を整えた。
「……はい、もう結構です。とにかく、今回は怪我人も出ませんでしたし、不問としましょう。次からは気を付けてくださいね」
「ありがとうございます」
「了解しました」
戸の近くに立っていた美奈が、玄武の方へ向く。
「では、万行さん。この二人を連れて行ってあげて下さい」
「かしこまりました」
退出する背中を、彼は真剣な眼差しで見つめ、三人分の靴音が聞こえなくなるまで視線を外すことはなかった。
魔闘士学園の拳法使い 遊星ドナドナ @youdonadona
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