21話『いいヤツ』
担任がホームルームの終わりを告げると、生徒たちはガヤガヤバラバラと帰り支度を始める。
「ルリヤ、ばいばーい! 」
「うん」
「ルリヤ今日も部活う? 」
「うん」
「ルリヤ、あしたDORAGIのCDねえ」
「うん」
「ルリ、またねー」
「うん」
丈の短いなんちゃって制服を着る女子たちの、キャッキャと聞こえる挨拶を適当に流して、俺は立ち上がった。
いつまでもウダウダと帰らない男子生徒らの壁をすり抜け、ひと際賑わう、廊下側の席。ひと際静かな一角。
「何? 」
ミソノイが尖った視線で俺を見上げる。
「部活、行かないの? 」
「行くけど。何」
こいつは、本当にさあ──……
でも、俺はグッと堪える。
「いや、どうせなら、一緒に行かないかなって」
その言葉に真っ先に反応したのは、背後の馬鹿男子共だ。ヒューと
「キタムラとミソノイって、そんな関係な感じ? 」
「マジ? マジ? 」
「同じ部活なんだから普通だろ」
俺の反論にも、ヤツらは「そうかなー」とニヤニヤだ。一生そうしてろ、馬鹿共が。俺は無視する。
「行こうよ」
ミソノイを見下ろす。
「いいけど」
*
「キタムラってさ、本当、訳わかんねーよな」
未だ賑やかな廊下を並んで歩くミソノイが言った。
「は? 何で? 」
お前の方が訳わかんねえよ、と言葉を押し殺して、俺は聞き返すだけにする。
ミソノイはいつものムスッとした顔で、「なんかさ」と答える。
「人付き合い、面倒くさがりそうなのに、交友関係広かったりとか、マキノ シグレみたいなヤツにも話し掛けたりするじゃん? 」
「マキノは同じ部活だし」
俺の回答に、ミソノイは一瞬ギョッとした顔を見せた後、ジトッと口を尖らせて、「あたし、あいつ嫌い。見ててイライラする」とつぶやいた。
俺にとってはどっちもどっちだけどな。俺は聞き流してやることにした。
「人付き合いは確かに面倒だけどさ。ないがしろにしすぎる方が面倒じゃない? 程よく周りに馴染んで、程よく空気で居れたら、それに越したことないじゃん」
「でもお前馴染めてねーじゃん、女たらし」
ミソノイの口から飛んできた突然の攻撃に、俺は「はあ? 」と思わず声を荒げた。
「たらしじゃねえよ。あいつらが勝手に絡んでくるだけ! クライシみたいな馬鹿共と一緒にしないでくれ」
学年首位のミソノイは、俺の失言を聞き逃さなかった。「あーあ」と陰湿に口角を上げた。
「センパイの悪口言ってるの聞いちゃったー。ま、あたしもあの人苦手だからいいけど」
「まじか。アイツ、誰からも嫌われてんな」
「誰からも? 」
ミソノイは俺の言葉を繰り返す。
「うん。マキノからも嫌われてる」
「まじ? アイツも人の事嫌いになるんだ」
「な」
俺は、ミソノイの感想に内心安心しながら短く返事する。
「でも」
とミソノイ。
「ザイツセンパイはクライシセンパイのこと好きだよ」
「まあ、あの部活を引き継いでくれる貴重な存在だからな。嫌いなんて言えねえだろ」
「違くて」
階段を下る人の流れに合流する。
「なんつーの? 人間として? 好いてるらしーよ? 本人から聞いた。この間、図書室でたまたまザイツセンパイと出くわしてさ。その時に言ってた。「マサハルはいいヤツだよ、アイツ以上にいいヤツに出会ったことない」ってさ」
「マジかよ」
部室がある1階に到着する。
「ザイツさんってさ、掴みどころないよな、本当」
「分かる。あとお節介。その時も、あたしの大会原稿の進み具合を心配してきたし。「いつでも相談乗るからね」ってさ」
「げ」
相槌を打って、面談室の扉を開ける。
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