13話『じゃあ』

 俺らの話をひと通り聞き終えたザイツは、ペンをテーブルの上に置くと、「ありがとう」と言った。


「どの本も個性的で、興味深かったよ」


 簡単に感想を述べると、「じゃあ、さっそく本題に入ろうか」と続けた。


「本題? 」


 ミソノイが聞き返す。


「みんなに本を持って来てもらった理由は、伝えてあったはずだよね? 」

「ビブリオバトルの為……ですよね? 」


 俺が答えると、ザイツは「うん、そうだね」とうなずいた。


「それで、僕がみんなに質問した理由、それも、同じ理由からなんだ」


 ビブリオバトル、とは、観客に対し、いかに紹介する本に興味を持たせるか、が重要になってくる。


「発表方法は人それぞれスタイルがあるけど、絶対に、避けて通れない3点があるんだ。それは──」


 著者名、書籍名、そして、あらすじ紹介。


「前ふたつで個性を出すのは難しいと言うか、ほぼ不可能だよね。工夫すべきは、あらすじ紹介にあるね。いかに簡潔に、分かり易く、みんなが興味を持ちそうなところをピックアップして話せるか。センはその点で、良かったね。ここにいる誰もが、この続きを読んでみたいと思ったと思うよ」


 「でもね」とザイツ。


「あらすじ紹介の技術は、ビブリオバトルにおいて、最重要って訳では無いんだ」

「じゃ、何がいちばん大切なんですかあ? 」

「いい質問をしてくれたね」


 ミソノイの問い掛けに対し、ザイツは、片方の口元だけをクイッと上げた。

そして、親指で、自身の胸元を指した。


ここだよ。が、何よりも大切なんだ」

「は? 」


 とミソノイ。


「冗談で言ってるんじゃないよ。どんなに話が巧くても、がなければ、相手に届かない。その点で、シグレの発表は優れていたといえるね」

「え、う、うち……あ、す、すみません……」


 何故か謝罪するマキノに対し、「褒められてんだけど」と、ミソノイが突っ込んだ。


「そ、そうですよね、すみません……」


 懲りずに謝るマキノに、ザイツは困ったような笑みを向けると、「さて」と声のトーンを上げた。


「以上を踏まえて、それぞれへの感想と、これから大会に向けて、どういう方向で進んでいくかを話し合っていこうか」


 まずは、セン。


「さっきも言ったけど、センの強みは、話の巧さだね。構成が良くて、聞いてる人を引き込む力を持っているね。ただ、欠点が。センは、人に勧めようって気持ちが薄いんだ。なんていうか──自分の中だけで、全部を解決しようとする傾向にある、という印象を受けたね」

「自分の中だけで全部を解決しようとする? 」


 俺が反復すると、ザイツが、「そう」とうなずいた。


「ボクがセンにした最後の質問。”おすすめのシーン”。センは、どのシーンも良くて選べないって言ってたよね? 」

「言いましたけど」


 ミソノイがむっつりと答えた。


「でもね、ボクが感じた限りなんだけど、センは、ちゃんとおすすめのシーンを選んでいると思うんだ。だけど何故か、ボクたちには教えてくれなかった──そこが気になるね」

「へえ? あっははは! 」


 ザイツの言葉に、ミソノイはケラケラと笑った。


「ちょっとセンパイさあ、深読みしすぎじゃないですかあ? あたし、まじで本心から選べないって言ったんですけど」


 挑戦的な物言いをされても、やはりザイツは乱れない。


「うん。これは、ボクの意見だからね。センの好きなように受け取って欲しい。じゃあ、次はルリヤ……に行きたいけど、先にシグレからで」

「えっ? うち? あ、はい……」


 突然の指名に、マキノはビクンと肩を震わせた。が、俺も平気な表情を作りつつも、内心、同じ気持ちだった。


「シグレも、さっき言った通りだね。シグレの売りは、パッションにあると思う。話の構成の仕方はもう少し勉強する必要があると思うけど、伝えようとする姿勢は、いちばん感じさせられたよ」

「あ、はい、あ、ありがとうございます……」


 マキノは言って、いつも通り、真っ赤になってうつむいた。

 ザイツはそんなマキノに優しい微笑みを送ると、そのまま、黒目だけを俺に向けた。


「じゃあ、最後、ルリヤだね——」

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