10話『持ち寄り』

 部員の顔合わせから一週間後。


「じゃあ、選んできた本のお披露目会といこうか! 」


 ザイツの掛け声を合図に、俺らは、それぞれの本をテーブルの上に並べた。


 俺の選んだ本は、宝石社から出された『毎日つくりおき』という料理本。料理界の女神と慕われる、あの津田 遠子先生の新作だ。

 ミソノイが選んだ本は、集友社から出された『殺人者たちへ』というミステリー。ミステリー小説の祭典、”あのミス”にノミネートされている、有名な書籍らしい。

 そして、最後に、マキノがテーブルに乗せた本。


『『わたしがひらく』! いい本だよね! わたしもこの前読んだよ』


 ホワイトボートを抱えたセンザイさんが、そう書いて、マキノに笑い掛けた。

綺麗だ。


 『わたしがひらく』──芥川賞を受賞した現役女子大生、種田しおり の、書下ろし青春文芸。今回も、あらゆる新人賞や本屋大賞にもノミネートされているらしい。


「みんな出揃ったね」


 並べられた本の表紙に目を通したザイツが言う。


「で、どうかな? 読んできた? 」


 質問に、「まあ、一応」とミソノイ。

約600ページを一週間で読み終えるとは。凄いのか暇だったのかどっちだ?


「う、うち、あ、ワタシ、は、あ、はい……」


 続いて、マキノも頷いた。


「俺も」


 もちろん読んだ。当たり前だ。


 俺たちの返答を聞いたザイツは、「おお! 」と目を輝かせ、「みんな偉いね! 」と、まるで小さな子供を持て囃すみたいに言った。

 その態度に、一瞬だけムッとしたが、ヤツが次に吐いたセリフで、俺らは一気に青ざめた。


「じゃあ、ひとりずつ、感想を聞いていこうか」

「えっ……! 」


 誰よりも先に、マキノが声を上げた。というより、思わず声が漏れてしまった、に近いだろう。室内に響いた自分の声に、顔を紅潮させてうつむいてしまった。


「詳しくって? 」


 マキノに気を遣ったのだろうか、間を開けず、ミソノイがザイツに尋ねた。


「その言葉のままだよ。読んだ本の感想を詳しく聞きたいってだけ。でも安心して。こちらからの質問形式にするから」


 じゃあ、トップバッターは、と、ザイツ。


「折角、質問して来てくれたんだし、ミソノイからにしようか。大丈夫? 」

「まあ、あたしは、別に」


 ミソノイが答えた。


「ありがとう」


 ミソノイの目の前の席に座るザイツが、優しく微笑む。


「いえ」


 何でも無さそうに言葉を返したミソノイだが、どこか緊張している様子。


「じゃあ、最初に──本の作者と、タイトルを教えてくれるかな」


 ザイツの質問に、ミソノイが、「は? 」と声を上げた。


「見りゃあ分かりますよね? 」

「うん。だけど、一応ね」


 ふたつ下の後輩から失礼な態度を食らっても、表情ひとつ崩さないザイツに、ミソノイはすっかり面食らったという感じだ。

 テーブルの上から本を取り上げる。ザイツに良く見えるように表紙を向けた。

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