9話『決死の呼び掛け』
書評って言っても、どうすればいいんだ?
昼休み。学校の図書室。新刊書コーナーの背表紙と、睨めっこしていた。
どれもピンと来ない。
それは、いつの間にか隣にいたミソノイも同じみたいだ。
「いい本見つかった? 」
聞いてみると、ミソノイは目を前に向けたまま、首だけで返事をした。
「俺も。普段本なんて読まないのに、好きな本を1冊持って来いって言われてもなあ。どういう本が好みなのか、自分でも分かってないし」
*
それは、きのうの、新入部員紹介兼活動指針発表。
市で開催されるビブリオバトルへの参加を、強制的に決められていたことを知った俺らは、部長であるザイツへひと通り抗議した後、大人しく、大会についての説明を受けてやった。
「さっきも少し説明したが、ボクたちが参加させていただくビブリオバトル──書評大会だね。は、この処沢市が、1年に1度、開催しているものなんだ。書評大会という名の通り、自分の好きな本を発表する。全員の発表が終わったら、「誰が発表した」「どのタイトル」を読みたいと思ったかを、審査員も含めた、大会参加者でそれぞれ選び、投票する」
「ちなみに、自分に投票するのは無しだよ! 」とザイツは注意する。
「で、各部門で1位から8位までを決める。部門っていうのは、中学生部門、高校生部門、大学生部門の3部門に分かれていて、1校につき3人までの参加制限が設けられているよ」
「シグちゃん、センちゃん、ルリっち! 俺らは丁度3人っすね! 」
クライシが合いの手を入れた。ザイツは、「そうだね」と優しくうなずき、説明を続ける。
「処沢市が開催する大会では、書評する本に対して、3つの規定が設けられているんだ」
*
「”ひとつ、各学校の図書室に置いてある本の中から選ぶこと。ひとつ、高校生以上は新刊書の中から選ぶこと。ひとつ、雑誌は書評対象外とする”──……大会まで手厚くフォローするとは言ってくれたけどさ。そのスタート位置に立つところから、もうムズイっていうか、面倒くさいっていうか」
ミソノイはうんともすんとも反応しない。
一応同じ部だからって会話しようとしてんのに、無視って何だよ。と、心の中で舌打ちをする。が、このまま無音になるのも気不味い。
「マキノはもう決めたって? 」
何の気も無く、質問をした。ミソノイの目が、初めてこちらを向いた。
「知らない。何であたしがアイツのこと知ってるって思うの? 」
ああ、そうだ。こいつ、こういうヤツだった。
俺は、話を続けようとしたことを後悔した。
「いや、女子同士だし、話してんのかなあとか思って」
「女子同士だからってことが理由? 」
「そうだけど」
「別に、女子同士だからって、みんながみんな話すとは限らなくない? 」
「まあ、そうだけどさ」
面倒臭。
俺は再び内心で舌打ちをする。
もういい、教室に帰ろう。
「決められそうにないな。選ぶの今度にするわ」
図書室から出ようとすると、後ろから声を掛けられた。というより、背中に声をぶつけられた、と表現するのが正しいだろう。
「どんな内容がいいと思う? 」
「へ? 」
振り返って見ると、ミソノイが、顔を真っ赤にして立っていた。
「新刊書ってもさ、色々あんじゃん? ふつうのファンタジーもさ、新書だって、ビジネス書だって、同じ本じゃん? だからさ、その、お前は、どういうジャンルで行くのかなって思ってさあ」
つっけんどんだが、精一杯言葉を紡ぐミソノイに、おや? と俺は思う。
こいつ、もしかして──……
「ミソノイさ、俺のこと、お前って呼ぶけど、俺にも”キタムラ ルリヤ”って名前があんだから」
言うと、俺が知る限り、いつも不機嫌そうな無表情を浮かべているミソノイの眉が、クっと歪んだ。
「じゃ、じゃあ、キタムラ! 」
投げ捨てるように俺の名前を呼んで、耳まで真っ赤にするミソノイ。面白い。
「キタムラはさ、読むとしたら、読むとしたら、どれにする? 」
「だから、まだ決めてないって」
返すと、「だから、読むとしたらっつってんだろ! 」と、ミソノイは口を尖らせた。
「仮定の話だろ。仮定の! もし、読むとしたら、だよ」
「ごめん、ごめん」
「何笑ってんだよお」
ミソノイのジトっとした目で見上げられても、脅威を感じることも、もう無くなっていた。
俺は一度、ドアに向けた足を、本棚に戻した。
「逆に聞くけど、ミソノイはどんな本を読むんだ? 」
もしかしたら
気がついたら、途端に気持ちが楽になった。
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