7話『全員集合』

 ガラリと開かれた扉の向こうから現れた人物。

サラサラと揺れる長い黒髪、キリッと見据える黒目、スラリと長い脚──……


 まるで、花が咲き乱れたみたいに感じた。


 美に圧倒される、という体験を、俺はしたことが無かったけれど、今が、まさに、それだ。


「おお、噂をすれば。ユウコ、お疲れ様」


 ザイツが微笑んで言う。


「センザイちゃん、ちっす」


 クライシも手を振る。


 ユウコ……センザイ……ユウコ……

センザイ ユウコ!?!?!?


 こ、この人が、噂の、 !!!


 仙斎センザイ 憂子ユウコ

この人もまた、あかねヶ丘高校を語るうえで欠かせない有名人だ。


 学校一の美人。

 クラス中の男子はとにかくとして、女子からも、羨望の眼差しを向けられている。

と言いつつ、一度もお目に掛かったことが無かった俺は、センザイさんの名前を聞く度に、余裕綽々の面でもって、「さて、どんな美人なんだろうな」とチラリと考えるだけだった。


 が、が、だ。


 こ、これは、これは──……


「ユウコ、新入部員たちだよ。右から、ルリヤ、シグレ、セン」


 ザイツから紹介され、俺は慌てて頭を下げる。

センザイさんからの微笑。分かり易く心臓が鳴る。


「1年生諸君、彼女はセンザイ ユウコ。ユウコ、自己紹介、よろしくね」


 センザイさんは美しく頷くと、クライシの隣に腰を下ろした。


 スカートを両手で押さえてソファに座る。

1つ1つの動きに、思わず見とれてしまう。


 視線を動かすと、さすがタラシ、クライシも同じみたいだ。

馬鹿みたいに口をあんぐり開けて眺めている。

が、傍から見たら、俺も同じ阿呆面なのだろう。


 悔しいが、この美貌を前に素直になるなという方が無理だ。


 センザイさんは後ろでひとつに纏めた髪の毛を肩から払うと、膝の上から、何かを持ち上げた。


 ホワイトボード──?


 口元に笑みを浮かべたまま、センザイさんはキュッキュとペンで書きつけ、ひっくり返して見せた。


 ホワイトボードには、『はじめまして。倉石くんと同じ2年の、仙斎 憂子です。よろしくね』と書かれていた。


「えっと、あの──……」


 俺が言葉を探している横から、矢のような声が飛んだ。


「何で話さないんですか? 」


 ミソノイだ。


「おい! 」


 俺が言うと、センザイさんは、「いいの」というジェスチャーをして見せた。

そしてホワイトボードに、サラサラと書く。


『”失声症”なの』

『しゃべれないのに言論部にいるなんて変よね』


 見せて、優しく微笑んだ。


「いえ! 変じゃないです! 」


 俺が口を開くより早く、マキノが怒鳴っていた。

 マキノは、自分の発した声に、自分で驚いているようだった。

また顔中を真っ赤に染めて、髪の毛の下でモゾモゾと、「変じゃ、ないです……」と、今度は小さく呟いた。


『ありがとう』


 ホワイトボードに書いたセンザイさんに、胸が痛んだ。

 一方、失礼な質問を飛ばした張本人は、「初めて聞いた病名ですう」と、腕を組んでいた。


 俺はミソノイに苛立ちを覚えながらも、自分だって、言葉の率直さは違えど、同じ質問をしようとしていたじゃないか、と、思い出して、自分で自分を殴りたくなった。


「よし、これでみんな揃ったな」


 静まり返りそうになった部室に、ザイツが再び音を与えた。


「みんなが揃ったところで、今後の活動方針についてしゃべりたいと思う」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る