6話『変人だらけの自己紹介』

 トイレに行くと言いながら、校門近くの自販機まで歩いた。

缶コーヒーを買って面談室に帰ると、随分と賑やかになっていた。


「おお、ルリヤ! 待っていたんだよ! さあ、座り給え」


 ソファにどっかり腰を掛けたザイツが右手を上げて言った。


 ローテーブルを挟んで置かれたソファ。

上座から、部長のザイツ、副部長のクライシ。向かいに、偉そうに足を組むミソノイ、自信なさ気に体を縮こまらせている女子が座っていた。


「ああ、すみません」


 クライシの隣も空いてはいたが、俺は、体を固くさせている女子の隣、扉に一番近い席に座ることにした。


 俺が座ったのを見ると、ザイツは、「よし」と声を上げた。


「きょう、みんなに集まって貰ったのは他でもない。1年の入部期間も終わり、我が言論部のメンバーも揃った訳だ」


 ザイツ曰く、部の活動指針を説明するのと一緒に、部員同士の自己紹介をし、少しでも親睦を深めたいとのこと。


「まずは、1年生諸君。数ある部活の中から我が言論部を選んでくれて、ありがとう。ボクが部長のザイツだよ。部では、唯一の3年。困ったことがあったら、何でも頼って欲しいな。部の事でもいいし、プライベートの事でもね。じゃあ次、マサハル」


「っす」


 部長からの指名を受け、クライシが姿勢を正す。


「副部長、2年のクライシ マサハルっす! 趣味はあ、ショッピング! オレ、可愛い女の子が入ってくれて、オレ、超嬉しくってえ。オレ、正直お姉さんが好きなんだけど、年下でも全然オッケーっていうか、オレ、女の子に関しては守備範囲まじ自慢だからあ、オレのこと、マサ君って呼んでくれても全然いいってか、まじ、よろしく! 」


 クライシは身の毛のよだつ内容を捲し立てると、「いやあ、本っ当にオレ、嬉しい! 」と大きな声で付け足した。


 ああ、これが、噂のだよ。

女たらし。ナンパ師。

学校中の女に声を掛けてるらしいが、彼女ができたという噂は一度だって立ったことがないらしい。


 まあ、当たり前か。こんなヤツ。

 部室の女子ふたりも、ドン引きの顔だ。


 次はミソノイの番だった。

偉そうなチビは、最上級生を前にしても尚、足を組んだまま口を開いた。


「1年A組。ミソノイ セン。趣味は特に無し。よろしくお願いします」


 非常識なヤツ。


「うん、よろしくね」


 ミソノイの不愛想な挨拶にも、ザイツは眉ひとつ動かさず、笑顔で返した。


「え、えっと、えっと……1年、B組、牧野マキノ しぐれ、です。えっと、えっと……しゅ、趣味、えっと……ね、寝る、こと……かな……あ、どうしようもなくって、ごめんなさい……えっと……は、話すことが、苦手で、あの、見ての通り、あの、得意では、なくって、あの……よ、よろしく、お願い、します……」


 マキノは消え入りそうな声で自己紹介を終えると、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

焦げ茶色の髪の毛に表情を隠し、制服のスカートを握り締めている。


 オドオド女。

話すのが苦手なくせに、どうして言論部になんか。


「丁寧な自己紹介ありがとう。よろしくね」


 やはりザイツは笑顔で言う。

隣りでコロコロ表情を変えているクライシと違って、全く感情が読めない。


「じゃあ──」


 ザイツが俺に視線を移す。


「ああ、はい。キタムラ ルリヤです。ミソノイと同じA組です。趣味は、家事。ザイツさんはご存知ですが、自分で言うのも何ですが、家庭が少し複雑で、あまり部活に顔を出せないとは思いますが、よろしくお願いします」

「ああ、よろしくね」


 と、急にクライシが立ち上がった。


「みんなよろしくう! ええっとお、センにい、シグにい、ルリ──」


 俺を呼ぼうとして、ヘラヘラした顔をこちらに向けたクライシだった。

が、俺の殺気を感じ取ったんだろう。

クライシは笑顔を固まらせた。


「ルリ──」

「ルリ──? 」

「ルリ──! 」

「はあ!? 」


 言い切ったクライシは、すっきりと顔を明るくした。


「ルリっち! うん! みんな、よろしくなっ! 」

「ルリっちって──はあ……いいですよ、もう、それで……」


 馬鹿に何言っても無駄だ……

俺もザイツ同様、受け入れよう。


「いい子たちが入ったなあ! っすよねえ、ザイツ部長! 」


 女子を前に大騒ぎするクライシに、「そうだねえ! 」と優しくうなずくザイツ。

 見てたら、何だか力が抜ける。


 その気持ちは、ミソノイもマキノも同じらしい。

ミソノイは眉をしかめて首を傾げているし、マキノは未だに頬を熱くさせながらも、唇に微笑みを浮かべている。


「で、本当はもうひとりいるんだけど──」


 ザイツが言い掛けた時、部室の扉が、ガラリと開いた。

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