5話『むかつくチビ』

 できる限りの気合を入れて部室の扉を開いたが、そこには、まだザイツやクライシの姿は無かった。

代わりに、見覚えのある姿が、面談室のソファに ちょこんと座っていた。


「あ」

「あ」


 確か、御園生ミソノイ センだったな。

今年のトップ合格者。入学式の時に代表スピーチを読んでた”チビ女”だ。


 学力でAからDクラスまで、順に振り分けられていく訳だけど。

CクラやDクラの馬鹿どもならともかくとして、同じAクラの連中をも見下す目つきは気に食わない。

 

 入学から1ヶ月も経っているっていうのに、誰ともつるまず、日当たりのいい席で、陰気な面して、いつも周りをギョロギョロ見回しているんだ。

正直、気味が悪い。


 が、お互いに存在を認識し合ってしまった以上、黙って扉を閉めるのは何とも奇妙な話だ。

それに、俺はそこまで失礼なヤツにはなりたくない。


 いつも通り、さり気なく話すんだ。


「ああ、ミソノイ、だっけ。お前も、言論部に入ったの? 」

「そうだけど。何か文句ある? 」

「は? 」


 突然降りかかった、謂れのない攻撃に、俺は思わず声を出してしまったが、何とか立て直した。


「いや、別に、文句とかは無いけどさ」


 いるよな、こういうヤツ。自分に酔って勘違いしてるヤツさあ。

こういうヤツには、大人な対応に限るんだ。

学力は高いようだが、中身は思春期真っ盛りの馬鹿だ。

馬鹿に腹を立てるのは馬鹿のすることだ。


「人としゃべってるイメージが無いから、意外だなって思ってさ」


 俺がそう、話を閉じようとすると、「別に」と、ミソノイが口を開いた。


「人がいなそうだったから」


 でも、と、ミソノイはぶっきらぼうに続ける。

見た目に比例して、話し方も、どこか幼稚だ。


「でも、人は少なかったけど、押しがくどい。入部届出してサヨナラだって思ったけど、部長から、きょうは部員の顔合わせだから絶対に来いって」

「部員って、ザイツ部長にクライシ副部長──確かに、少ないな」

「それと、もうひとりいるって。めんどくさかったし、深く関わりたくなかったから誰かとは聞かなかったけど」


 ミソノイはそこまでを、身長と見あわない低い声で淡々と話すと、「で? 」と、俺を見上げた。


のことはさ、知ってるよ。同じクラスってのもあるけど。ザイツセンパイからスカウトされてたでしょ? 見たんだよね。その時もう入部届出しちゃってたからさ、マジやべえ部だなって後悔したんだけど。で? はマジでやばい部だって分かってて入って来たんでしょ? 変なヤツ」


 好き勝手しゃべると、ミソノイは頬杖をつき、ムスッと口を閉じた。


 俺としても、これ以上コイツと話す義理も無いんだ。

「まあ」とも「うん」とも「はあ」とも返事しなかった。

どこにも視点を合わせていないミソノイを横目でチラっと見て、


「俺、ちょっと便所行ってくる」


 とだけ伝えて、部屋を出た。

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