第5話
御内裏様の一行とは、徳兵衛の仕込んだものでした。御内裏様はもちろん平治がなりすまします。亀虫太郎は下男として屋敷に入り込みました。警護の武者は十左衛門。女官は里の娘たちです。
さて、徳兵衛の考えと言うのはこうです。
欲の皮を突っ張らせた蛾楽が、下心みえみえで御内裏様一行を迎え、宴がたけなわとなった頃、下男の亀虫太郎が屁をひり、その責めを主の蛾楽に問うと言うものです。そのために亀虫太郎は、韮や大蒜などを食べれるだけ食べて、なるだけ臭い屁をひれるように備えました。実際、亀虫太郎は渾身の一発を放ちましたが、すっきりしたのは亀虫太郎ただひとり、周りの者は酷い目に遭ったのです。
蛾楽を追い出した十左衛門と徳兵衛は、早速長者様を牢屋から救い出しました。お嬢様も屋敷の者たちも、涙を流して喜びました。
「十左衛門様、ほんとうにありがとうございました」
お嬢様に頭を下げられた十左衛門は、見るのも哀れなほど恐縮していました。そんなふたりの様子を見ながら、徳兵衛はにやにやしていました。
長者様は桜の木の前に立つと、枝ぶりを眺めながら、その幹を撫でました。皆が集まって来て、長者様と桜の木を囲みました。長者様はひとりひとりの顔を見て、頷きました。
「来年の春にもまた、皆で桜を愛でられたらよいな」
ほんとに、と皆が和しました。
亀虫太郎と御内裏平治 古狸杢兵衛 @1735
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