第4話

 里に御内裏様が、お忍びでお越しになるらしい。そんな風な噂が蛾楽の耳に入りました。蛾楽は考えました。ここで首尾よく御内裏様をもてなして気に入られれば、わしももう一花咲かせられる。そこで早速、いまや己の物にしてしまった長者様の屋敷の者らに命じて準備を急がせます。

「お前には、御内裏様の酌をさせよう」

 蛾楽はお嬢様に言いました。


 蛾楽は一行を屋敷に招き、宴を張りました。

 豪勢な料理を用意し、楽師も呼び、美女を侍らせ、自らは御内裏様の側で蛇の様にぬめぬめと媚び諂うのでした。

 そして、万事首尾良く行った、と蛾楽がほくそ笑んだ時でした。屋敷の下男のひとりが、ぷすー、と言う間抜けな音を出して屁をひり、とてつもない悪臭が宴席に立ち込めました。座に連なっていた面々は皆、あまりの臭さに悶絶しました。

 ただ御内裏様の護衛役の武者だけが正気を保って、主上を庇いつつ蛾楽に抜き身の刀身を突き付け言い放ちました。

 「やい、御内裏様の面前で屁をひるとは何事だ。下の者の不始末は貴様の不始末、死んで償え」

 蛾楽は口から泡を吹きながら、命乞いをします。

「よかろう、尊いお方のおられる席で流血は好ましくない。早々に立ち去れ。そして二度と戻るな」

 顔は覚えたぞ、と十左衛門が凄むと蛾楽は這う這うの体で逃げ出して行きました。

「窓を、開けろ」

 そう言うと、十左衛門も白目を剥いて倒れました。


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