第3話

 さて、里には、亀虫太郎と呼ばれる男がおりました。ほんとうはただの太郎なのですが、亀虫の様な臭いおならをするので、亀虫太郎と呼ばれているのでした。そら、今もまた、屁をひとつひって、皆が顔をしかめると、きまり悪そうに頭をかきかきぺこぺこしております。

「亀虫太郎のやつ、相変わらず臭い屁をひりやがる」

 徳兵衛と十左衛門が鼻をつまみながら言いました。

 しばるくすると、また一人、妙な男が通りかかりました。御内裏平治と呼ばれる男です。この男も、ほんとうはただの平治なのですが、御内裏様のような恰好をしているのでそう呼ばれておるのでした。もちろんそんな恰好をしていてはいけないのですが、お役人の方でも馬鹿らしくて相手にしないので、何となく許されているのでした。

 ぼんやりと御内裏平治が通り過ぎるのを眺めていた徳兵衛げが、ぴしゃりと額をたたきました。

「どうした?」

 と十左衛門が尋ねました。

「ジュウザ、お前はちょうど使いに行っていて蛾楽の野郎に面が割れてないな?」

「何だよ、それがどうしたんだい、トク?」

「俺に考えがあるんだよ」

 徳兵衛が十左衛門にひそひそと耳打ちをしました。

「どうだ、名案だろ?」

 と徳兵衛は自信満々ですが、十左衛門は半信半疑で徳兵衛の顔を横目で見ています。

「そんなにうまく行くもんかね?」

「うまく行くも行かねぇもねぇやい。俺たちで長者様とお嬢様をお助けするんだ。」

 と息巻きながら、徳兵衛は酒を呷りました。

  

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