円卓の騎士Ⅲ
僕に向かって一斉に円卓の騎士が迫ってくる。手に持ってるのは正真正銘の武器だというのに、どうして誰も怯まないのか?流石の僕も、有事でもないのに兇器を振り回すのに躊躇いがある。
仕方ない。ここはできるだけ剣の平で叩くようにしよう。
向かってくる少女たちの動きは、どれも有希のバフを受けた僕にとっては緩慢に見え、対応するのは容易だった。伊達に本物の騎士の下で修行してきたわけじゃない。
それに僕には実践経験もある。そう簡単に負けてたまるか。
円卓の騎士たちの武器はどれも多種多様で個性に溢れていた。日本刀や西洋剣などのメジャーなものから、十字架を模した剣に、軍刀、両剣、斧剣などもあった。
僕はそんな騎士たちの一太刀を受け止め、躱し、そうして作った隙に丁寧に一太刀を浴びせいく。
何人かに攻撃を当てていく中で、僕は自分の身体が強化されていることを実感した。自分でも信じられないほどに身体が軽い。素早い動きやトリッキーな動き、予期せぬ不意打ちにも容易に対応することができる。
しかも、僅かに攻撃が当たっても痛くも痒くもない。これは『ブラッド・パージ』を使ったときと同じ感覚だ。
確かに、これなら真剣を振り回しても大丈夫かもしれない。
僕はそれを確かめるべく、円卓の騎士の一人の攻撃を敢えて腕で受けた。もしバフが効いてないなら、僕の腕は斬り口を境に泣き別れることになる。
しかし予想通り、腕が斬り裂かれることはなかった。そればかりか痛みもない。
よし、これなら遠慮なく振り回していけるぞ。
勢いに乗った僕は、向かってきた騎士を一太刀で吹き飛ばした。すごい、まるで無双ゲームじゃないか! 通常、遠慮なく振り回すことの難しい真剣を思い切り振り回し応戦していく。
その結果、僕は向かってきた円卓の騎士をあっさりと退けてしまった。
残っているのは、一斉に向かってこなかった3人。和風剣士の結衣さんとさっき僕に宣戦布告した洋風剣士の少女、そして闇の剣士の響也だ。
「さあ、逃げも隠れもしない! 誰からでも掛かってくるがいい!」
決まった……!
僕は剣を3人に向けて口上を上げ、チラッと有希の方を盗み見る。有希はニコニコといい笑顔で僕に視線を送り、手を振ってくれた。僕はその視線に言いようのない満足感を覚えるとすぐさま3人の剣士の方に視線を戻した。
「よろしくお願いします」
3人の剣士の中で最初に声を上げたのは、和風剣士の結衣さんだった。
「よし、来い!」
僕は結衣さんの声に応え、すぐさま戦闘態勢に入る。そして、お互い向かい合った状態で機を窺い合う。そして
瞬時に動いた僕と結衣さんさんは刀と剣を打ち合わせた。火花と共に金属の擦れる音が響く。結衣さんさんは無駄のない動きで僕の間合いに入り込み、大きな一振りを僕に見舞った。
この子、強い!
僕は、結衣さんが先ほどまでの円卓の騎士とは一線を画すことを瞬時に見抜いた。それもそのはず、さっきまでの面々に防御は必要なかった。対して結衣さんの一太刀は、防がなければならないほどに速く、鋭い。
だがこの程度で僕は動じない。今までに何度もローレンスとの打ち合いでこのレベルの一撃を経験してきていた。
鍔迫り合いから結衣さんを押し返して距離を取る。しかし、次の瞬間には僕と結衣さんは再びお互いの間合いに入りこんでいた。
お互い一足一刀の間合いの中で剣戟を交える。その速さは凄まじく、絶えず白光が音と共に飛び交い、剣から飛び散った火花が僕たちの剣戟を彩る。
打ち合っているとよく分かる。彼女の剣には華があった。僕の剣が愚鉄から鍛えられた錬鉄なら、彼女の剣は生まれながらに美しい花のよう。完成された美しい刀の軌道は、まるで舞っているようだった。
僕は結衣さんとの間合いを再び離し、頭の中で次なる一手を組み立てていく。
彼女の剣ははっきり言って天才のそれだ。このまま腕を磨いていけば、いずれ僕でも敵わなくなるだろう。
しかし今の実力ならば僕に勝機がある。隙があるほど彼女の剣は未熟ではないが、突破口がどこかにあるはずだ。彼女を倒すため剣を正面に据える。
そして、僕は相手が飛び込むよりも早く次なる一撃を放ちにいった。
結衣さんは刀で僕の斬り落としを受け止める。僕はそこに絶え間なく次の一撃を浴びせかけていく。
攻撃は最大の防御。泥臭いと思われるかもしれないけど、西洋剣術の戦法の1つとして有名な力押しだ。
結衣さんに主導権を握らせていてはまずいと判断した僕は、自分のペースにするべくガンガンと攻め立てていった。
結衣さんは僕の攻勢に耐えかねたのか、距離を取ろうとバックステップで後退する。
そうはさせるか。
僕は瞬時に距離を詰めて、続けざまに攻撃を仕掛けていった。
僕の猛攻に対して、結衣さんは徐々に焦りのようなものを見せ始めていた。
僕はその姿から結衣さんの弱点を推測する。おそらく、彼女は精神的に追い詰められるのに弱い。
彼女の剣の技量は言うまでもないが、剣を極めるには腕が良いだけではダメなのだ。剣の極意は明鏡止水。
彼女の精神はまだそこには至っていない。
だから僕は敢えて剣を大きく振って隙を作った。
突然の猛攻が晴れ、大ぶりになった僕の身体に結衣さんは、条件反射で飛びつき横一文字に払おうとする。きっと結衣さん自身も、これが罠だということは飛びついた時には理解できたはずだ。
しかし、それも含めての読み!
僕は結衣さんの横払いを剣の振り下ろしで抑えつけ、そのまま流れるように剣をスライドさせて結衣さんの胴を横切りにした。
これで後……2人。
「さあ、次は誰が来る?」
僕は剣を構えたまま、残りの2人に呼びかける。
「よっしゃ、私が行くぜ!」
僕の声に応じたのはさっきの挑戦的な少女だった。どうやら、響也は最後まで動く気はないようだ。
少女はサーベル剣を鞘から抜き放ち、構える。少女の格好は羽のついた騎士帽を被り、派手な色合いの騎士服を纏っていた。
この子も強いな。
僕は剣の抜き方、構え方を見てそれが訓練を積んできたものだと分かった。今まで何度もこの構えで斬り合いをしてきたのだろう。
少なくとも実力は結衣さんとほぼ互角と見ていい。
「剣を交える前に聞きたいことがあるんだ」
「なんすか?」
少女は片眉をツイと上げて口の悪い態度で応答する。
「名前はなんて言うんだ。闘う前に教えてくれ」
僕はこの子の名前が知りたかった。騎士としてお互いが名乗りを上げて剣を交える。そんな儀礼があってもいいじゃないか。
それに、いい加減少女のままじゃ呼びにくいし。
少女は一瞬ポカンとした顔をしていたが、すぐにニヤッと広角を片方だけ上げて笑った。
「そういや名前言ってなかったっすね。私の名前は嵩寺紗友里さん! 結衣さんのライバルだ!」
彼女はそういった次の瞬間には地面を蹴っていた。
巨大な弾丸になって僕に突撃する。そして、僕の胴を目掛けて鋭い一突きを差し向けた。
僕はそれを腕を使って受け流しスレスレで躱す。紗友里さんは、すぐさま次の一突きを差し向ける。その攻撃の繋ぎはほとんど見えない。傍目にはほぼ同時に突きがいくつも伸びているように見えるだろう。僕だって、有希に強化を受けていなければまともに目視することすら困難だ。
それでも、僕には現状対応できている。やや防戦気味になっているのは気になるが、すぐにチャンスを掴んでみせる。
「へへ、流石はアーサー王っすね」
紗友里さんは僕に対して称賛の言葉を告げる。
「君の実力はその程度かな?」
僕は沙友理さんを挑発する。今の僕にはこれでは正直物足りない。剣戟の楽しさとしてはさっきの結衣さんの方が上だった。
「まだまだぁ!」
紗友里さんは攻撃の手を強める。突きだけでなく、斬撃も加えてくる。その一撃は暴風のように荒々しい。
僕はなおもすべての攻撃を腕で受け流していく。しかし、鋭いが突き、斬撃のリズムが一定のため受ける難度はそこまでではなかった。
紗友里さんもそれを分かっているのかフェイントを入れたり、突きと斬りのリズムをズラスなどして僕を揺さぶる。
流石に少しキツイか。
僕は僅かだがジリジリと後退を始めていた。まずいな、このままギアが上がれば押し負けるかもしれない。そろそろこっちも打って出ないと危ういか。
「くそっ」
すると紗友里さんの方から焦る声が聞こえてきた。どうやら中々攻めきれないことに苛立ちを覚えているようだ。なるほど。彼女もまた、結衣さんと同じ弱点持ちか。
ならこのまま耐え忍ぶ!
僕は僅かにしていた後退をやめて、その場にどっしりと腰を据えた。
全部捌ききる。
その覚悟で僕は紗友里さんの攻撃と対峙した。
「くっそ」
攻めあぐねる紗友里さんはどんどんと剣の精彩を欠いていく。彼女も結衣さんと同じく精神的な部分が未完成のようだ。特に彼女はノッている時は強いが、そうでないときは途端に崩れるのだろう。
もう目も慣れてきた。決して彼女は弱くはないが、残念ながらここで終わらせる!
僕は彼女の攻撃を隙を窺う。精神的に追い詰められるとどんなことでも大振りになりがちだ。それまではジッと耐える。その時はそう遠くないはずだ。
それから、時間にして約十数秒。その機会は訪れた
「この!」
見えた!
彼女はほんの僅かにだが剣を大きく引いて、突きを繰り出した。僕はその攻撃を待ってましたとばかりに強く上に弾く。
突きの軌道を大きく崩された紗友里さんは体勢を崩す。僕はがら空きの胴に剣を突きつけた。
そして、紗友里さんの胴体にロングソードを突き立てて勝利をもぎ取った。
これで残るのは辻村響也一人だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます