円卓の騎士Ⅱ
「じゃあ着替えてくるから、みんな少しの間待っててね」
そう言った有希は、僕を連れて騎士服があるという準備室へと向かった。
「これとかどう?ひとまずの間に合わせとして」
そうして入った準備室で差し出されたのは、白をベースにした騎士服に青いマントという、正しく騎士という出で立ちだった。僕が思い描いてる白馬の王子様像と一致する部分もけっこう多い。
「おお、これはすごい!しかし、よくこんなに色々とあるね」
僕は準備室の中を見渡して言った。なにせ、この準備室には多種多様な衣装や装備が所狭し並んでおり、中には、アニメやマンガのキャラクターが着ているものまで散見されたからだ。
「マネージャーの実家が鍛冶屋でね。そこで色々作ってもらってるのよ。どれも高品質でとても助かってるわ」
なるほど、それでこんな精巧な武具があるわけか。お金持ちの道楽はすごいな。
「さ、早く着替えて。私も自分の服に着替えるから」
「もしかして、有希も一緒にここで着替えるのかい?」
僕は有希の促しに、ちょっぴりの下心を乗せてからかう。
「な……! んなわけないでしょ!」
有希は顔を紅くして反論する。僕としては冗談半分で言った発言だが、意外にも有希は真面目に返答してきた。
有希はぐぬぬな顔で「アーサーってけっこうエッチだね」と言い残して準備室から出ていった。
だけど、安心してほしい。僕がこういう反応をするのは有希だけだから。……いやむしろ心配か、それ。
僕は脳内の煩悩にツッコミを入れながら、制服のベルトに手をかけた。
そうして、僕は騎士服に着換えると自分の姿を確認してみる。準備室には鏡が無いので全容を把握することはできないが、間違いなく白馬の王子様のように見えるはずだ。
次に腰に差す予定の剣を見る。さっきから気になって何度も確認しているが、やはり本物にしか見えない。僕はローレンスの剣を手入れしてきた経験があり、剣の真贋の見分けはつけられる自負がある。その目から見ても、これは真剣だと訴えかけていた。
いや、これについては後で聞けばいいか。今はそれよりも重要なことがある。
早く有希のコスプレ衣装を鑑賞しなくては。
それから、有希にこの衣装を褒めてほしい。有希にカッコイイって言われたい。
僕は脳内で有希の褒め言葉を楽しみながら武道場に戻り、そこで一呼吸を置いて辺りを見回した。しかし、有希の姿はまだ見当たらなかった。僕は期待したものが見れず肩を落とす。
仕方ないので円卓の騎士の衣装を物色しようと思ったが、その多くが女の子のためジロジロと見るのは憚られた。それでも、チラッと見るだけでもよく作り込まれているのが分かる。この衣装を作った職人は、プロレベルの腕を持っているようだ。
コスプレをチラチラと物色するうち、円卓の騎士たちは僕の視線に気づいたようだ。そして、それぞれが僕の格好について評論をし始めたようだった。
自慢じゃないがかなり似合ってるはずだから、きっと高評価を頂けていることだろう。
「アーサー。おまたせ!」
そうして、しばらく寸評会のモデルになっていると有希が掛け声を上げて戻ってきた。僕は期待感の表れから、その声に反射的に振り返る。
「おお、これは!」
僕は、有希の少々独特ながらもカッコいい格好に心を射抜かれた。
有希は漆黒の和服に身を包み、その下には和服と同じ漆黒の袴を履いていた。その袴は僅かに長さが短くなっていることから、おそらく外ではブーツを履くのだろうと僕は想定する。所謂ハイカラと呼ばれる和服の着こなしだ。
と、ここまではまあ普通だ。僕が独特と感じたのはその上に着ているモノが原因である。
有希は袴の上に赤黒いレザーコートを身に着けていた。そのレザーコートは、響也のような人種が好んで身につける類の禍々しさがあり、それがシンプルな黒の和服と違和感なく混ざっていた。
「どう?アーサー。似合ってる?」
有希は照れるように頬を掻きながら僕に感想を求める。赤と黒を基調にしながらも、どこか正統派ヒーローのような出で立ちに僕はとても満足だった。
「とても似合ってる。制服の時はかわいいかったけど、今はかっこいい感じかな」
有希は僕の感想にちょっと顔を紅くして「ありがとう」と俯きがちに呟く。
訂正、やっぱかわいい。
「僕の格好についてはどう思う?」
僕は、有希のかわいさに対抗するようにポーズを取って自分の姿を見せびらかす。
「とても似合ってるよ。わざわざ用意した甲斐があった」
有希は自分のことのように嬉しそうだ。有希に喜んで貰えるのは、こちらとしても嬉しい。
互いに互いの服装を褒めあった僕たちは、円卓の騎士のメンバーの下へ戻る。
「よし、じゃあ今日も始めましょうか」
「はい!よろしくお願いします!」
有希がそう言うと、円卓の騎士たちは威勢よく返事を返した。
「それじゃあ改めて紹介するね。彼はアーサー・P・ウィリアムズ。今日から私たち円卓の騎士の王よ。これからは私だけでなく、彼にも判断が必要なときは仰ぐようにして。それじゃあ、みんな。お互いに自己紹介しましょうか。まずは王のアーサーからよろしく」
そう言って有希は僕に自己紹介するように促す。僕もその気になって一歩前に出ようとした所で
「待ってください。有希さん」
と円卓の騎士の一人がちょっと待ったと有希に意見した。
「なに?」
「そんな自己紹介よりも、まずは試合から入りませんか? 私としては、どんくらい剣ができるか分からない人を王として慕うことなんてできないっす」
彼女は堂々とそう進言した。確かに、彼女の言い分は最もだ。原典の円卓の騎士はそれぞれが一騎当千の騎士。そして王であるアーサーもまた、類まれなる剣の実力者だった。
ならば、現代でそれを束ねる
僕は彼女の問いかけにフッと自信を持って笑みを浮かべた。
「いいよ。僕の実力をここで示してみせよう」
「……やけに自信満々っすね。そこまで言うからには期待しますよ」
彼女は、自信満々な僕に対抗するように言った。
「じゃあ、まずは交流も兼ねてアーサー対他のみんなでバトルにしようか。ルールはアーサーはみんなを、みんなはアーサーに致命打を与えたら勝利ね。アーサー、イケる?」
話の流れを読んだ有希が妙案を提示した。一体多か。これは僕の実力を証明するのに丁度いいルールだ。
「余裕。全員に勝って僕の実力を証明してみせるよ」
僕は有希に向かって宣言した。これは有希に良いところを魅せるチャンス。できるアピールはどんどんしていこう。
「じゃあ全抜き、期待してるからね」
有希は僕に期待の眼差しを向けて言った。どうやら僕の提案を実行してくれるようだ。有希の期待に僕は俄然やる気になる。
これは、ますます負ける訳にはいかなくなったな!
有希の期待にあてられた僕は、意気揚々と剣の素振りを始めた。
そして、現在、僕の目の前には円卓の騎士がズラっと並んでいた。様々な格好をしているが、みんな一様に剣をこちらに向けて臨戦態勢になっている。
僕もまた、それに答えるように剣を抜き臨戦態勢に入る。
「それじゃあ、バフ配るからね」
観客席で僕たちを楽しそうに眺めていた有希は、のんびりとした口調でそう言うと、僕達に向かって両手をかざすように広げた。
すると次の瞬間、僕は自分の力が底から湧いてくるような感覚を感じ取った。
「なんだこれ?」
「そういえば言ってなかったっけ? 私がこういうことできるの」
有希は伸ばした手を下ろしながら、うっかり忘れてたとばかりに言った。
「こういうの、とは?」
返しが流石にふんわりしすぎている。僕には要領を得られない。
「私はね、他人の身体能力とか耐久性を引き上げることができるの。そうじゃなかったら、真剣で斬りあいなんてできないでしょ?」
「やっぱりこれ真剣なのか⁉ 大丈夫? こんなので斬りあいなんかして!」
有希は僕の言葉にいたずらっ子のような笑顔を浮かべて
「大丈夫大丈夫! 私を信じて。ではスタート!」
と僕の返事を待たずにバトルをスタートさせた。
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