世界の中の小さな奇跡
「まさか・・・」
高校二年生 缶バッチ 小学生の女の子
これは、『高校2年生』の時に夕透駅で出会った『小学生の女の子』に『缶バッチ』を渡した時のことだろう。
と言うことは・・・篠沢さんがあの時の女の子なのか・・・?
篠沢さんはリュックの中から何かを取り出した。
「これ・・・志水さんが私にくれたものです。」
「あっ・・・これ・・・」
それは、千秋線が廃線した時のイベントでもらった缶バッチだった。
濃い緑色に枯葉をイメージした赤茶色の窓枠の電車が、名物だった橋の上を通っている絵だった。
もう僕の頭の中は、「この缶バッチをあげたのは僕だ」という言葉しかなかった。
風が吹いた
僕は、我に帰った。
なぜ篠沢さんは僕だと思ったのだろうか。
顔か
声か
でも、数年前の話だ。
「どうして、僕が篠沢さんに缶バッチをあげた人だって思ったの?」
「直感です。」
「ちょっ直感?」
さっきの「お願いだからそうであって」みたいな真剣な眼差しではなく、宙を見ながら篠沢さんは
「いや〜なんとなく顔とか声とか似てるし、会った時の条件も揃ってるし、あとは会った時の感覚ですね。小学生の時に感じたあの感覚と同じだったのでそうかなぁ〜って。すみません。」
「いやいや・・・あの、その『感覚』ってなんですか?」
ちょっとした質問だった。
「えっ・・・そっそれは・・・」
あれっ、なんか顔赤い?
「あー・・・もう。」
足をジタバタさせてから、僕を駅名標のあたりまで引っ張っていった。
「私は志水さんに初めて会った頃、この世界が大嫌いでした。頑張ったところで報われないし、好きなものは大勢の人と同じでなければいけないし、人なんて自分が良ければそれでいいと思ってるって・・・
でもあの日、カバンに電車の缶バッチをたくさんつけてた私を見て、もう一生手に入らない千秋線の缶バッチを、イベントで人が多かったのに名前も知らない小学生を探してまで渡してくれた。
もしかしたら、そこまで世界は悪くないのかなって思いました。
それから、7年経って線路に落ちそうになった人を助けて・・・一瞬でわかりました。7年前に会った人だって。」
僕の目をまっすぐに見て話す篠沢さんは、目に涙を浮かべていた。
「私、あの時からもう一度会いたいって思ってました。
私に優しさと奇跡をくださってありがとうございます。
七年間、ずっと好きでした。」
少しびっくりした。でも、心が暖かくなるのを感じた。
篠沢さんは涙を流しながらも僕をまっすぐに見ていた。
「ありがとう。
僕さ、7年前電車に乗ってた時、もうこれで電車旅はやめようって思ってたんだ。
でも、缶バッチをたくさん持ってる女の子を見つけて、自分が小学生の時を思い出したんだ。千秋線の缶バッチを渡したらさ、すっごい喜んでくれて、こういう出会いがあるから電車旅ってやめられないって思った。
僕も、もう一度篠沢さんに出会えて幸せだよ。
僕も好きだ。」
奇跡なんて信じてなかった。
奇跡なんてただの偶然
でもこれは、
世界の中の小さな奇跡だ。
世界の中の小さな奇跡 立花 ツカサ @tatibana_tukasa
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